2020年3月4日水曜日

社会学感覚15−1 家族機能の変容──伝統家族と現代家族

社会学感覚(文化書房博文社1992年/増補1998年)
現代家族論

伝統家族の機能

 家族は社会に対して、また個人に対して、さまざまな働きをしている。そうした働きのことを「機能」(function)という。「機能」は、意図してそういう働きをしていることでなく、結果的にそういう働きをしてしまっていることをさす。現代家族論にさいして、家族が結果的に果たしている機能にはどんなものがあるか、ということから始めよう▼1。
 世界的視野からみると、家族には、大きくわけて五つの機能があるといわれてきた。
(1)性的機能――結婚という制度は、その範囲内において性を許容するとともに婚外の性を禁止する機能を果たす。これによって性的な秩序が維持されるとともに、子どもを産むことによって、社会の新しい成員を補充する。
(2)社会化機能――家族は子どもを育てて、社会に適応できる人間に教育する機能をもつ。子どもは家族のなかで人間性を形成し、文化を内面化して、社会に適応する能力を身につけていく。
(3)経済機能――共同生活の単位としての家族は生産と消費の単位として機能する。
(4)情緒安定機能――家族がともに住む空間は、外部世界から一線をひいたプライベートな場として定義され、安らぎの場・憩いの場として機能する。
(5)福祉機能[保健医療機能]――家族は家族成員のうちで働くことのできない病人や老人を扶養・援助する働きをする。
これらは伝統的な家族には大なり小なり観察される機能である。ところが、このような家族機能を現代家族にそのままあてはめるとなると、大きな問題につきあたることになる。

現代家族における家族機能の縮小

 たとえば、性的機能についてみれば、結婚以外の性に対する統制力がゆるんだため、婚前交渉や不倫などのように性的関係がかならずしも夫婦だけの特権的なことでなくなったし、少産化傾向や後述するディンクスに示されるように、子どもを産むことが家族の必要条件ではなくなってきた。子どもの社会化についても、もはや社会化のエージェントは学校や塾・スポーツクラブそしてマス・メディアヘと主軸が移動しつつある。また経済機能も、第一次産業中心の時代にもっていた生産の場としての機能はほぼ喪失したといっていいだろう。生活維持の責任を家族が負う形で、いまはかろうじて消費の単位であるにすぎない。

ゲマインシャフトとしての家族

 こうした変化のなかで、経済機能のように家族にとってかならずしも本質的でない機能は外部に排出されるが、情緒安定機能や福祉機能のように家族でなければ果たせない専門的な機能の重要性は増すという考え方がでてきた▼2。これは、たとえば多くの人が「安らぎの場」として家族を位置づけ、老後は家族とともにすごしたいと考えている社会意識状態にほぼ対応している。
 社会学でも一九六〇年代まではそう考えることが多かった。古くはフェルディナンド・テンニエスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』が家族の超歴史的かつ通文化的な本質を〈ゲマインシャフト〉に求めている。ゲマインシャフトとは「信頼にみちた親密な水いらずの共同生活」のことだ▼3。テンニエスは「家族生活は、ゲマインシャフト的生活様式の普遍的な基礎である」としていた▼4。また、クーリーは家族をフェイス・トゥ・フェイスの親密な結びつきと協力を中心とする「第一次集団」(primary group)に位置づけ、家族の社会化機能を重視した▼5。そしてパーソンズは社会化機能と情緒安定機能――かれのことばでは「子どもの社会化」と「成人のパーソナリティの安定化」――に家族の本来的機能をみた▼6。このような考え方は〈ゲマインシャフトとしての家族〉論と総称すべきものであり、多分に理想的局面――より正確にはイデオロギー的局面――をもっていた。
 ところが、この考え方は現在いくつかの現実的局面から挑戦を受けている。第一の局面は共働きによる家族役割構造の変化であり、第二の局面は高齢化によってつくりだされる福祉構造の変化であり、第三の局面はライフスタイル意識による家族形態の多様化である。この三つの局面をぬきにして現代家族を語ることはできない。結論からいうと、この三局面は〈ゲマインシャフトとしての家族〉が現代において幻想あるいは幻影であることを鮮明に提示しているのである。本章ではここに論点をしぼって、家族についての常識的知識を洗い直すことにしたい。

▼1 家族機能についてのスタンダードな説明として、森岡清美・望月嵩『新しい家族社会学』(培風館一九八三年)一九章参照。
▼2 前掲書。
▼3 F・テンニエス、杉之原寿一訳『ゲマイシャフトとゲゼルシャフト――純粋社会学の基本概念』(岩波文庫一九五七年)(上)三五ページ。
▼4 前掲訳書(下)二〇二ぺージ。
▼5 C・F・クーリー、大橋幸・菊池美代志訳『社会組織論』(青木書店一九七〇年)。
▼6 パーソンズ、ベイルズ、橋爪貞雄ほか訳『核家族と子どもの社会化』(黎明書房一九七〇-七一年)。

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