2022年1月19日水曜日

経済学部のすべての人のための表現プラットフォームの検証実験的研究(平成30年度学部共同研究費)

平成30年度学部共同研究費による共同研究報告書

野村一夫

経済学部のすべての人のための表現プラットフォームの検証実験的研究


研究概要および研究成果

 本研究は、平成28年度から継続してきた学内研究助成プロジェクトのまとめとして学部内で使用できるマニュアルを制作するプロジェクトである。これまでメディア制作を中心とする活動は、ゼミなどの演習系授業にかぎられていた。緊密な指導と膨大なコミュニケーションがないと頓挫するからである。

 この実績の上で、本研究では学部全体への拡大共有を目指した。なぜなら本学経済学部は表現活動全般において決定的に弱いからである。とくに能動的な日本語作文ができない。学生たちは自分が書いた文章を積極的に公開したり共有したりしない。いわゆる発信力も異常に弱い。ソーシャルメディア上において大人としての言論活動をおこなっている者はごくごく少数である。

 セカンドマシンエイジと呼ばれて久しい現代において、これでいいわけがない。メガバンク採用における一般職の消滅に見られるように、機械的な作業マシンとしての事務仕事は劇的なスピードでスマートマシンに置き換わっていく。能動的な日本語表現が不得手な者たちは淘汰され、その分、知識豊富で表現の達者なコンサルティング的な仕事が増えていく。英語やデータ分析などの能力はその次である。と言うか、それらはスマートマシンに置き換え可能な段階に来ていると私は判断している。それがどこまで進んでいるかに関する知識が欠落しているから方向を読みまちがえる。

 母語による表現と思考の不断の活動が、世界に循環する多様な知識を能動的に摂取し吟味し、それを駆使して問題を定義し問題解決できるようになる。そのレッスンをどのような手順でおこなうかを考えることこそが高等教育の喫緊の課題である。

 本研究プロジェクトで実施できたのは次の項目である。

(1)作業上必要なタイムラインを確保する。ケースマにはそれがない。Workplace by Facebookを運用して2年になるが順調である。アカデミックとして登録してあるので無料である。学部全体を網羅することがすでに可能である。

(2)作業上必要な執筆場所を確保する。Stockは有料だが、アカデミックを設定してもらったので、予算化できれば拡大して使用できる。これは文書中心の業務用クラウドである。ギガ単位の大きなファイルもそのまま取り込める。学生たちは、こちらが使いよいと言う。

(3)Workplace by FacebookもStockも完全にクローズドなので、著作権のある現役の書籍も共有できる。いわゆる自炊をすれば、ゼミ程度の単位であれば共有できる。しかもビューアーも内蔵されているので、そのままの状態で閲覧できる。今回は行動経済学の文献を共有した。

(4)多様な表現スタイルで記録する。記録しないかぎり、来たるべき他者とは共有できない。記録されないその場限りの表現では、その場しのぎの態度を放置してしまいかねない。いつでも再現可能でなければならない。

 これらに対して本研究プロジェクトでできなかったことは次の項目である。

(1)他の研究助成プロジェクトとともに大幅に始動が遅れ、制作物も納期ぎりぎりになり、普及活動がまったくできなかった。

(2)試作品として3年ゼミ生34名に企画から版下制作までチーム単位で自主的に制作させたが、総じて幼児帰りを起こして低水準のものしかできなかった。これだけ経験を積ませた学生たちでも、朝な夕なの指導をしなければ、ちゃんとしたものにならない。

 評価と課題。

 志は高く持ちたいが、学内および学部内での普及は絶望的であるというのが結論である。グロスハックの発想で経済学部のために手のかかる開発研究をしてきたが、総じてこの大学でできることは少ない。今後は本学から離れて、全面的にインターネット上で展開することにした。



# 平成29年度特別推進研究助成金報告書

## 平成29年度 國學院大學特別推進研究助成金 研究成果報告書(概要) 

## 平成30年9月26日 

決定番号  國特推助第98号

研究代表者  野村 一夫(経済学部 教授)

研究課題名   中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回

研究経費  1,640千円


### 研究の概要


 本研究は、平成29年度国内派遣研究員として大阪大学COデザインセンター招へい教授であった期間の後半を当てて実施したものである。私の中間知識論は理論的側面と実践的側面を持っているが、本特別推進研究では実践的側面の検証に充てることにした。支給金額に合わせて実地検証の対象学生を2年新ゼミ生34名に限定することに変更し、後期授業で8冊の新書本を制作することにした。今回は「論文の卵の産み方」というシリーズとして情報源とフォーマットをきっちり指定して総計約千ページをすべてクラウド上で執筆・編集・制作させた。プロセスは以下の通りである。 

A 研究ワークフローの設計:メディア制作を主軸にするアクションリサーチの手法を採用する。被験者のサポート体制を整備する。 

B スタートアップ:ゼミ生の選抜ができた6月1日からWorkplace by Facebook(アカデミック)に全員を登録して連絡体制を作った。サポートスタッフとしてゼミOBOGやメディア系コンサルタントを招待して協力を仰いだ。Workplace by Facebookはニュースフィードが流れてしまうきらいがあったので、まとめ用としてベータ版がリリースしたばかりだったリンクライブ社のStockを使うことにした。 

C キックオフ:今回は24冊の課題図書を提示して8チームがそれぞれ3冊を担当して、チーム全員がその3冊を読んで、引用文を出し合い、それをチームの課題に合わせてキュレーションをして選択させた。この引用文を主軸にして、各項目2ページと決めて、次のように編集するよう求めた。タイトルを付ける。引用文と文献注を付ける。解説を書く。キーワードをハッシュタグ付きで書く。討議用資料として使えるように論点をまとめる。担当者としてのコメントを書く。参考文献情報を書く。これを「論文の卵」と呼ぶことにして、これを被験者全員で500項目を作成した。トッパンエディナビを使用して版下を被験者が制作して、それを相互チェックし、各チームの体裁や用語法を統一した。最後の振り返り本は期間内試験終了を待って2週間で企画・分担執筆・デザイン・版下制作・校正・校閲をおこなった。 

D トランスモード:「論文の卵の産み方」シリーズを題材に1セッション10分間のラジオトークをWorkplaceに記録した。約80セッションを収録。ここまでで研究対象とするコンテンツが出そろったことになる。報告書ではこれを整理して今後の研究の分析対象・引用元とする。 


### 研究成果の概要

研究成果の概要

 私の中間知識論では「認知科学的転回」の帰結として、知識が教授され伝達されるものではなく、能動的な主体による学びとしてコミュニケーションの過程でそのつど新たに創造されるものだと考える。エンコーディングとデコーディングの循環過程に学生を参加させる状況を作り出して、そこに正統的周辺参加させることで主体的学習が生じると考える。ただし、そのような創造的局面を実現するには明確な目標設定と有効な手段や環境、そしてバックヤードの膨大なコミュニケーションが必要である。今回はその具体的な環境設定を実地検証するものであった。

 被験者学生によって制作された「論文の卵の産み方」シリーズは以下の通り。

『弱気で頑固な自分の動かし方』

『パッとしない自分をスイッチする』

『他人を変える、自分を変える、関係を変える技術』

『腑に落ちるデザイン』

『学び方を学び直す』

『弾けるアイデアをひねりだす』

『遠くの雲のつかみ方』

『正しいチームワークの編み出し方』

 以上新書8冊を刊行したのち振り返り本として『アクティブラーニング授業の作品化プロジェクト全行程』を刊行した。このような学生自身による本づくりは半年の課題としては、かなり重いものである。そのバックヤードでなされたコミュニケーションの総量はプリントアウトすると優に600ページを超える。とりあえず平成29年度の研究成果としては、この全プロセスのロウデータを整理して、次につなぐことである。

 一方、平成30年度科研費申請における進展について報告したい。これまで私は単独で研究計画を立ててきたが、派遣研究先の池田光穂・大阪大学教授(COデザインセンター副所長)と共同で研究することになり、Facebook上でも、研究室でも、相当な分量のやりとりをおこなって「社会知の理論」に絞って申請することにした。研究課題は「知識理論の再編による社会学教育の再構築とコミュニケーションデザイン」というもので、社会学領域の挑戦的研究として申請したが、科研費自体は不採択だった。これまでの苦い経験から、オフィシャルなプロジェクトにしておかないと後発組に「なかったもの」にされてしまうので再度挑戦する。ただし、当初計画した書き下ろしの著作シリーズではなく、ウェブ上で展開するリゾーム状の公開形式への転換を考えている。https://socius.jp

 専門家の知識を学生に教授すればよしという「知識のティーチングモデル」はグーテンベルク以来最大の情報環境の変動によってほぼ破綻している。学習者主軸の「知識のラーニングモデル」への転換は必至である。これは理論的には「知識の認知科学的転回」として理解すべきであり、その具体的実践には情報メディア環境の周到な考察が欠かせない。

 平成31年度科研費申請については、大阪大学の池田教授と理論面での研究を計画している。できればカリキュラム案まで提示したいと考えている。挑戦的研究の審査に社会学者があまりいないことを鑑み、科学論分野で申請する予定である。


## スタートアップからキックオフへ

 科研費が不採択となったため本学特別推進研究助成に申請したが規模を縮小せざるをないと判断して、経済学部全体を対象とするのをあきらめ、野村ゼミ2年生のみを対象とすることにした。Workplace by Facebookの日本語版がリリースされたばかりであったので、それをアカデミック申請して、それを主軸にプロジェクトをおこなうことにした。そこへの投稿はすべてアーカイブ化されている。また、そのエッセンスをStockに整理しつつ進行させたので、それをそのまま掲載して、プロジェクトのブループリントの提示としたい。


### 野村ゼミ13期生 ゼミ手帖【ゼミ初日キックオフ用】 

2017年度後期用 

MesoMediaFab

 平成29年度國學院大學特別推進助成採択プロジェクト 

「中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回」

 研究代表者・野村一夫 


### 01 3分でわかる野村ゼミ

**■ ゼミのテーマ**

トランスメディア環境におけるクリエイティプの条件

**■ゼミの目標**

 多様なメディアが情報の玉突きをするトランスメディア環境において、多彩な能力を発揮するプロデューサー的存在になるためのレッスンを主軸にする。この複雑な社会の中では、適切に「つなぐ人」が、多くの人びとや組織を創造的なネットワークに組み入れるのだ。「つなぐ人」に必要な知識と能力を学ぶ。そして有能な「つなぐ人」を目指す。

**■ゼミの到達目標**

1. 現在のトランスメディア環境について総合的に知識を学ぶ。ジャンルや技術の枠組みにとらわれない視野を獲得する。


2. 速攻で何でも作ってしまうクリエイターとして、いつも作品あるいはプロダクツを制作できる人になる。

3. 即興的に自在なコミュニケーションができる人になる。

4. 誰にも負けない読書力をつける。

5. 好きとか嫌いとかにとらわれない高いレベルの対話的知性をゼミに生み出す。

**■ゼミの5つのエンジン**

1. ノンジャンル(好奇心いのち! 好きか嫌いかはどうでもいいじゃん)

2. 速攻(前のめりでスタートダッシュ! スピード感を優先する)

3. プロダクト(ひたすら作品づくり! 作ってみないとわからない)

4. 即興と対話(手ぶらで何が言えるか、何ができるか、何をわかりあえるか)

5. オープンなマインドセット(すべて公開する不屈の根性)

**■ゼミの作品形式(メゾメディア)**

レベル1(非公開コンテンツ):Workplace、WorkChat、Stock、ゼミ内プレゼン、企画編集会議、対話、討論、メゾメディア工房(815研究室)でのティータイム

レベル2(公開コンテンツ):名刺、パンフレット、新書、ラジオ番組、公開ウェブ。

レベル3(作品としてのゼミ):ドキュメンタリー

**■演習1(2年後期)でやること**

1. 名刺をつくる。(9月)

2. ゼミの手帖をつくる。(9月)

3. 新書8冊をつくる。(クリスマスまで)

4. 新書をもとにラジオトークする。(1月)

**■使用するクラウドツール**

1. Workplace by Facebook(ゼミ活動をタイムラインで共有)

2. WorkChat(かんたんな打ち合わせ)

3. Stock(完成稿ストック)

4.  [G-Suit(@kgi.tokyo)Googleエデュケーション](mailto:G-Suit%EF%BC%88@kgi.tokyo%EF%BC%89Google%E3%82%A8%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3) 

5. Toppan Editorial Navi(トッパンエディナビ・ゼミの手帖と新書制作)

6. プリスタ( [http://www.printsta.jp/](http://www.printsta.jp/) ・名刺制作)

7. MEME PたAPER(リーフレット、カタログ)


いっしょに危ない橋を渡ろう!

### 02 野村ゼミ名簿

経済学部史上かつてない陣容! 情報共有とチームワークで乗り切ろう! 

●野村ゼミ13期生一覧

(省略)

### 03 メゾメディアとは何か

 「メゾメディア」という概念は、2016年度におこなった「国学院大学 特色ある教育研究」に採択された「すべてクラウドによる授業の作品化」プロジェクトで初めて提案した概念です。私の造語です。

 **メゾメディアとは、配付範囲あるいは到達範囲を限定したメディアの総称です。**マスメディアは全面公開が原則です。だれでも一定の条件を満たせば、情報・知識・コミュニケーションを得ることができるメディアです。たとえばテレビを買えば誰でも番組を観ることができるというように。

 逆に「通信」と言われるメディアは、一般に公開されません。当事者同士でコミュニケーションをおこなうためのメディアです。

 「メゾメディア」と呼びたいメディアは、マスメディアと通信メディアの中間領域にあります。**ある一定の範囲で共有するけれども、共有範囲が明確に定義されていてコントロールできるメディアのことです。**SNSはその典型です。

 2016年度のプロジェクトでは、大学教育における成果物の適切な公開について、主として2つのメゾメディアを使用しました。

 1つはトッパンエディトリアルナビとオンデマンド印刷を組み合わせて新書シリーズを刊行しました。私のゼミやクラスだけでなく、他の先生のフィールド調査報告書やシンポジウムの記録を制作しました。いずれも執筆しているのは学生です。

もう1つは「ノムラゼミラジオ計画」です。iPhoneを使ってFacebookページに始めました。学生と私とでラジオトークをしました。Facebookページは企業や団体がコンテンツを公開するアーキテクチャーですが、広告費をそのつど出せば、お知らせや投稿が指定したクラスターの人たちのタイムラインに表示されます。ラジオとは言えませんが、録音できる時間が最も長いのがFacebookページでした。

 そもそも学生の制作物は、発展途上の一里塚なので、そのまま公開するのは難しいのです。よくあるコピペ乱用のレポートが1つでも混じっていれば、冊子の評価がどんと落ち、いっしょに掲載されている制作物も含めて評判が悪くなってしまいます。本学経済学部でも大学院の留学生の書いた論文がコピペだらけで掲載雑誌を全部回収したこともあります。事件化することがあるのです。

 だから、大学は学生が書いたものや動画を公式サイトや入学ガイドにはそのまま掲載することはほとんど皆無です。事なかれです。だから経済学部では経済学会の方の費用で学生の論文集を作ったり、独自のサイトを設定して現役ゼミ生によるゼミ紹介を掲載したりしているのです。それは教育的見地からやっているのです。

 **授業での成果物(プロダクツ)は適切な範囲で共有するべきです。**たとえば卒論は指導教員しか読みません。あまたのレポートも、それで終わりです。ゼミ仲間にも共有されないし、まして後輩たちにも伝わらない。伝わらないから授業としては毎年同じような繰り返しで、授業そのものがなかなかアップデートできないのです。それで100年やってきた。

 しかし、この20年間に急速にアーキテクチャーとインターフェイスの進化が進みました。だれでもブログを書き、だれでもSNSでかんたんにグループ・コミュニケーションができるようになりました。かつてはサーバ管理者しかできなかった設定も今ではだれでも自分やグループの設定をコントロールできるようになりました。

 これはネットだけではなく、印刷や放送の領域にも及んでいます。昨年「特色ある教育研究」で使用したトッパンエディトリアルナビは、クラウド上でページものを編集できる画期的なサービスです。もともと出版社用に開発されたものなので文庫判と新書判しかありませんが、インターネットとブラウザだけで、こまかい編集作業ができ、ゲラもPDFですぐにできます。EPubもできます。クラウドでないと、こちら側の設備が相応に必要で経費がかかります。クラウドですと、ブラウザだけで済みますし、操作もかんたんです。

 これとオンデマンド印刷を組み合わせて,教育機関として適切な費用計算の仕方を提案して、授業の作品化の基軸メディアにしたのです。配付は手渡し。関係者だけがもっています。

 授業体験もたいせつですが、それをドキュメントとして残すこともたいせつです。そう考えて「すべてクラウドによる授業の作品化:メゾメディア活用実践研究」というタイトルのプロジェクトをやったのです。今年度はこれをさらに展開したいと考えて大学の特別研究助成に申請しました。そこで提案したのがリアルなメゾメディア工房という部屋です。工房とはアトリエ。ものを作る場所です。最近はFabと呼ぶのがオシャレなようです。これを編集室にして成果物を限定範囲で共有するシステムを構築したいと考えています。6月中には合否判定が発表されるでしょう。

 というわけで**作業部屋としてのメゾメディア工房(省略してメメ工房)**に対応する情報共有の場所として、この仮想メゾメディア工房を設置したのです。コンテンツ制作に関わることは、すべてWorkplace by Facebookに集約します。**教育的には、ここがすでに言葉の道場であります。**LINEグループもやりますが、こっちに集約したいと考えています。

 インターフェイスはFacebookと似ていますが、完全クローズドで安全です。容量制限もありません。アカデミックとして契約すると無料です。LINEをやっていると、だいたい適応できると思います。タイムラインには、登録してあるグループの投稿が反映するので、そこを注意して、できれば毎日見るようにして下さい。質問も自由です。全部私が答えるのではなく、お互いが知っていることを共有するような形でいければいいなと思っています。

 「1人だけで勉強する」のではなく**「みんなで賢くなる」**のがゼミの本質です。10人程度のゼミではなく30人超のゼミですから、週1の授業だけで情報共有はできません。ここはそういう規模で「みんなで賢くなる」ための**ナレッジ・コモンズ**として活用していきたいと決意しています。

### 04 ワークプレイスの使い方

 メゾメディアという概念は、学生が作ったコンテンツの公開にあたって、安全性を優先して、しかるべき範囲とリーチするメンバーを限定して配付・共有するためのプラットフォームを指します。教育現場における適切な範囲内でのコンテンツ共有のことです。どれがメゾメディアかということより、どのように運用するかに焦点があります。したがって「学生の安全」と「コンテンツ共有」の両立を目指したいと考えます。そのために必要な確認事項を明記しておきます。

(1)メンバーを増やすことができるのは野村だけに限定します。必要があれば、CEOまでWorkChatでお知らせください。これまでの経験上、Excelのテンプレートがありますので、その項目を埋める形でリストを作成してCEOまでお知らせ下さい。

(2)参加者全員に以下の条件のパスワードを求めます。

・10桁以上

・大文字小文字混入

・記号 !”#$%&'() を必ず入れる

・KEANのアドレスを利用しますが、KEANに使っているパスワードは絶対に流用しないでください。そこがこのコミュニティにとってのセキュリティホールになるからです。

・覚えられるパスワードは、たいていパスワードの機能を果たしません。パスワードの使い回しも厳禁です。乗っ取られたときの被害がその分、深刻なものになります。

(3)推奨する利用環境

・スマートフォン。必ず2つのアプリをインストールして下さい。主としてパソコンで利用する方も、2段階認証のさいにスマートフォンが必要です。若い人は問題ありませんが、今後スマートフォンを利用しない先生が参加する際には、さきにスマートフォンを用意していただくことにします。スマートフォンが本人確認の証拠になるからです。

・パソコン。完全なクラウドなのでOSは選びません。性能も関係ありません。とにかく新しいものにしてください。2万円台のものでかまいません。メゾメディア工房は交流サイトではありません。ワークするための業務用SNSです。そのためスマートフォンだけでは十分なワークはできません。必ず用意して下さい。

・ブラウザ。基本はGoogle Chromeにしてください。Chromeにパスワードを覚えさせておくと日常的には手がかかりません。メゾメディア工房をブックマークバーに入れておきましょう。

(4)何か納得のいかないことがあれば、放置することなく、すぐに野村までWorkChatでお知らせ下さい。「異変に気づいた人には通報する義務がある」と考えて下さい。CEOは深夜以外はたいてい対応できます。


■2段階認証

いきなり難しいことを要求するようで申し訳ないですが、セキュリティ確保のため「2段階認証」をしてください。

(1)自分のページを開いた段階で右上の歯車マークをクリックすると「設定」に入ります。

(2)「セキュリティ」を開いて下さい。ここで自分のアカウントのセキュリティが設定できます。

(3)2番目の項目が「2段階認証」です。これはログインしたときに自分の携帯電話のSMSに6桁の数字が届きます。それをWorkplaceに入れるとログインできます。1度やっておくと、しばらくは何もする必要はありません。パスワードだけでは守れないご時世なのでスマホと連携して、ひとつひとつのデバイスを認証するのです。電話番号を入れてSMSと連携して下さい。

(4)わからないときは研究室で手伝ってあげます。研究室にいる日は前日にWorkChatのティーパーティで予告します。


■ボトルネック

 ここまでのプロセスでボトルネックになっていたことは次の3つです。

(1)案外パソコンを持っていない。

 これまではスマホで足りていたと思いますが、これからは両方使うことになります。2万円台のマシンで十分なので何とか手に入れましょう。HPのネットストアを見て下さい。クラウド時代はハードディスだってもういらないんです。研究室にHP2台ありますので差し上げます。オシャレライフにしたい人は自宅にiMacを置いておけば、あとはスマホでたります。自習室のパソコンはやめましょう。

(2)案外メールを見ることがない。

 大学のメールはスマホでかんたんに確認できます。OutlookとExcelとWordとPowerPointは必ずスマホに入れて設定しておいて下さい。ゼミでのプレゼンはスマホのPowerPointでやります。HDMI端子を用意しておいて下さい。

(3)案外パスワードの使い回しがある。

 パスワードはサービスごとに替えるべきです。小さなノートに書いておいてカバンの中にいつも入れておくといいです。今回、2人の方のKEANのアカウントを使って「管理チーム」にリクエストをしてきた件がありました。KEANの管理者がここを確かめに来たのでしょう。システム管理者はそういうことをするもんです。なのでパスワードはサービスごとに替えましょう。そうすれば、1つのサービスが乗っ取られたり侵入されても、他のサービスに累が及びません。

 質問とかアドバイスはコメントにつけて下さい。

### 05 なぜリスポンスが重要なのか

 メールにしても業務システムにしてもSNSにしても、大昔のように電話しなくて済むようになって、ほんとうによかったと思う。電話は同期型のメディアだから即答をしなければならないから、考える暇がない。だから適切な対応ができないことが多い。もう20年ほど早く生まれていれば、電話中心の世の中にあって私なんか何も仕事ができなかったと思う。

 非同期型のメディアは、それなりに余裕があるし、テキストになるので「言った言わない」トラブルが少ない。ただしテキストに置き換える言語能力が求められる。

 だから毎日Facebookなんかに書いていると、リスポンスを返してくれるのは、高い言語能力を誇るハイスペックな先生たちばかりになる。教え子たちは人工知能によって私のタイムラインから消えてしまう。逆もそうだと思う。

 総じて、うちの大学の人びとはリスポンスがないか、とても遅い。職員はいいけれど、教員も学生もとても遅いか無反応である。最近はかつてよりめきめきよくなったとは思うけれども、それは一部で、たいていは巷間ビジネス文脈で言われているほどスピード感はない。

 理由はいくつかある。ヒントも少し。

(1)優先順位をまちがえている。公的なものが優先するはず。

(2)決断ができない。考えたり調べたりしないから思考停止する。つまり手数を惜しむから決断できない。

(3)処理能力が追いつかない。数をこなせない。

(4)リア充方面を優先している。だったら引きこもってはいけない。

 他方、何か判断を求めている人には明確な理由がある。それに無反応でいることは、実質的にはブレーキをかけているのと同じ効果になる。本人は「自分は何もしていない」と思っているかもしれないが、そうではない。相手に「ノー」を突きつけているのである。沈黙は「ノー」である。

 だから、そういう人は次のことをすべきである。

(1)その関係から離脱する。

(2)状態が悪いときは、そう宣言してアプリを削除する。

(3)なるべく現場に立ち会う、顔を出す。

(4)だれかにヘルプして引き上げてもらう。

(5)自分のコストの損得勘定をやめてみる。感情計算はやめた方がいい。


Q: どういうときに「いいね!」をしていいか,よくわかりません。「いいね!」に何かお約束とかお作法といったものがあるのでしょうか。

A: LINEとかTwitterにも同じ機能がありますが、Facebookの「いいね!」は名前もすぐにわかるし、親密な関係の中でおこなわれるため、とても強力です。それだけに先生や先輩方が居ならぶメメ工房においては気を遣うかもしれません。コメントにしても、どう絡んでいいか、わからないかもしれませんね。

 まず大前提は、ここには不審者はいないということです。ゼミ生もOBOGも親切でリスポンスのいい人たちです。基本的には、絡んでも大丈夫なタフなみなさんに来ていただいています。

 2年生のみなさんの立ち位置から見ると、リスポンスのよい人は(たとえば私のように)怖いかもしれませんね。じっさい私なんか先生方からはかなり怖れられていますが、それはうちの大学の人たちがネット上のリスポンスに慣れてないからなんです。でも、ここはクローズドな場所なので(そのために2段階認証をしていただいているわけです)怖れることはありません。

 私の第一の希望は「リスポンスのよい人」になってもらいたいということです。その最初の第一歩が「いいね!」(Like!)なんです。「いいね!」なら、それに対して反撃することはルール違反になりますから安心して付けて下さい。

 リスポンスを返すことからコミュニケーションが始まるのです。リスポンスがないとコミュニケーションは始まらない。原理的には、これだけ押さえておいて下さい。

だから、ここでは「読んだ、わかった」という意味で「いいね!」をしてください。「何ですか、これ?」というときは、そのようにコメントして下さい。そこからコミュニケーションが始まるはずです。あまり「責任ある言動」なるものに囚われる必要はありません。そのうち勉強していきますが、そのようなものが言われる組織から何か創造的なものは生まれません。創造の芽を摘むだけです。

 というわけで,お気軽に「いいね!」してください。まずはそこから始めましょう。

Q: 出遅れてしまいました。すでにラビリンスです。どうすればいいですか。

A: 急ぎすぎましたかね。私はひとたび決断すると、いつもこんな感じです。1人でやってる分には「仕事が速いね」でいいのですが、周りを巻き込むと迷惑がられます。今回は人数が多いので、いろんなケースを想定して「前のめり」でセッティングしています。

 そもそもゼミはまだ始まっていないのですから、時間のあるときにグループ単位で読んでいくといいと思います。「読んだ、わかった」と感じたら「いいね!」してください。

Q: いまごろになって3日前の投稿に「いいね!」しにくいです。

A: いやいや、それはLINEやTwitterの話でしょう。あの界隈は時間の刻みが細かいので、あっという間に「旬」が終わってしまいます。だから24時間態勢でキャッチしないと波に乗れない、あるいは「イケてない」と思われるんじゃないかと強迫観念に囚われてしまうんです。

 メゾメディア工房をWorkplace by Facebookに設置したのは、もうちょいLINEやTwitterより、じっくり時間を取りたいと考えたからでもあります。容量も多いし、ずっと残ります。タイムラインは必要だと思いましたが(ケースマにはそれがない)もっと複線的でないと、じっさいのゼミ活動には対応できないし、1人ひとりの温度差や瞬発力の差もタイムラインに吸収できないだろうということです。

Q: むずかしいです。。

A: そのうちわかる。今は、スタートアップのステージなので、来たるべきスタートラインをめざして、ピッチを上げていけばいいんです。

 だから、何日前の投稿であっても、いま「読んだ、わかった」なら,その場でリスポンスを返せばいいんです。そういう人がたくさんいれば、そこが現時点での「旬」なんです。Workplace by Facebookも、そうなるようにできているはずです。なぜなら、リスポンスがあった時点からコミュニケーションが始まるからです。

### 06 ゼミは6つのチームで運営する

 全員で手分けして運営チームを担当します。演習1は公費が支給されるプロジェクトでもあるので基本的な課題は提示しますが、具体的にはそれぞれの運営チームで計画して実施して下さい。今後は詳しい情報もまず運営チームに提示して検討してもらい、運営チームからゼミ全体に告知してもらいます。

**●運営チームの役割**

(1)担当する仕事について具体的にチームで計画して実行する。そのために**スケジュールを先読みして**準備をする。

(2)チームで決めたことをWorkplaceに報告する。途中経過であればWorkChatに報告する。**ドキュメントを残す習慣**を付ける。

(3)**各チームの役割を個人単位で振り分けない**で、チーム全体で調整しながら進める。個人単位で役割を振り分けてしまうと、その人が動けない場合、ゼミ全体が前に進めなくなるから。


**▶進行チーム5人

Mission1 ゼミを番組として扱い、番組進行(MC: Master of Ceremonies)を担当する。

Mission2 スケジュール管理(ガントチャートあるいは行程表を作成してチェック)。

Mission3 作業グループ分けを担当する。くじ、誕生日、コースなど。

**▶サポートチーム5人

Mission1 渉外(経済学会学生委員会との交渉)。

Mission2 会計(プロジェクト全体の会計)。

Mission3 いきもの係(出席管理と生存確認担当)。

Mission4 お茶会セッティング(メメ工房の飲食提供、月1万円程度を自由に采配)。

**▶工房管理チーム4人

Mission1 設営(教室のセッティング)

Mission2 Workplace運営。

Mission3 メメ工房カフェマスター、執事、メイド。

Mission4 IT担当(メメ工房にあるパソコンの管理とサポート)。

**▶記録チーム5人

Mission1 博物館見学ドキュメントを制作する。テキスト、写真、動画。

Mission2 言葉で記録する。順次Workplace内で共有できるようにする。

Mission3 映像記録を撮る(セッティングと編集、事前に安全な公開のために工夫する)。

**▶名刺・リーフレットチーム6人

すべてクラウドサービスで作成する。

Mission1 名刺制作はゼミナリステン全員で個人単位。プリスタ( [http://www.printsta.jp/](http://www.printsta.jp/) )使用。9月23日から9月30日まで。

Mission2 リーフレットはプロジェクト全体の紹介。カラー4ページか8ページ。MEME PAPER( [https://www.memepaper.jp/](https://www.memepaper.jp/) )使用。

Mission3 プロジェクト紹介はカラー文庫サイズ。トッパンエディナビ( [https://toppan-edinavi.jp/](https://toppan-edinavi.jp/) )使用。チェキ写真つきメンバー紹介。

**▶新書編集チーム9人

100ページの新書を8冊制作する。8つのチームを作る。中心となる編集長8名と調整係1名。今期課題はスキル系の命題集を作る。シラバスに提示した本の引用とかんたんな解説にする。詳しくは編集チームともむ予定。できれば来年度以降の基礎演習のディスカッション教材にしたい(少なくとも野村担当クラス)。具体的には、仕様を決める、レイアウトを決める、原稿をチェックする、掲載順序を決めたり、かたまりを作る、校正を進める。

**■活動手順**

(1)チーム単位でWorkChatグループをつくる。

(2)WorkChatでチームのリーダーを決める。

(3)土曜ゼミの進行表を作成する。

(4)アイデアを出し合う。

(5)調整が必要なときは「ティーパーティ」でおこなう。

キックオフ段階では野村が調整する。

**■印刷物作業期間**

名刺・パンフ・文庫 9月いっぱい

新書 10月から12月いっぱい

**■サブゼミ(別の曜日に定期的にメメ工房で開催)**

CMPV研究会

デザイン研究会

読書会(4年)

名画会(4年)


みんながスケジュール管理に苦労していることは、これまでの長い経験で理解しています。とくに(やめるにやめれない)ブラックバイトと、対外的な試合が目白押しの部会やサークルに深く関わっている人はいつもジレンマになります。

 野村ゼミでは募集段階から「土曜日に来れる人」という条件をつけて募集したので正規授業のある土曜日はいいだと思いますが、努力してくれれば参加不参加の結果は問いません。

 で、今のうちに考えておかないといけないのはブッキングすることがあらかじめわかっているときにどう対処するかです。

 ゼミとしての取り組み方を確認しておきます。

(1)土曜日はゼミの日。土曜日はゼミ生34人が唯一集合する日なので、15回分の日程は先に埋めておく。3限だけでなく,その前後も予定を入れない。運営チームにせよ、新書チームにせよ、みんなが集まるのはこの日だけなので最優先する。なぜなら他の曜日に集合するのは(自分も含めて)たいていムリだから。

(2)ブッキングすることが事前にわかった段階で、チームとの打ち合わせと調整をWorkChatでやっておく。ギリギリになってからは調整できないので、事前に調整するのが大人の作法。調整は所属チームと進行チームといきものがかりに自分から申し出る。私には言わなくていい。

### 07 新書制作

■何のためにやるのか

(1)読むレッスン:シラバスに掲示した文献を読んで、議論の題材になりそうな文章を見つける。文献は新しいビジネス・スキルに関する翻訳書中心。

(2)書くレッスン:引用文の解説と論点を整理する。

(3)編集するレッスン:どんなメディアコンテンツでも編集作業が必須。読む人のことを考えて編集する。

(4)情報をデザインするレッスン:膨大なメディアコンテンツをどのようにデザインし直すか。キュレーションを学ぶ。

■スタイル

1項目2ページ単位。タイトル、引用文、出典、紹介文、論点。

議論の道具箱。

判型 新書判。1冊100ページを目安にして8冊に分けて制作する。


■人事労務用語辞典より「キュレーション」

 「キュレーション」(curation)とは、情報を選んで集めて整理すること。あるいは収集した情報を特定のテーマに沿って編集し、そこに新たな意味や価値を付与する作業を意味します。もともとは美術館や博物館で企画展を組む専門職のキュレーター(curator)に由来する言葉ですが、キュレーターが膨大な作品を取捨選択して展示を構成するように、インターネット上にあふれる情報やコンテンツを独自の価値基準で編集して紹介するサービスもキュレーションと呼ばれ、IT用語として広く使われています。さらに近年では、人材教育や組織開発の分野においても、価値創造を促す新たな役割としてキュレーションの概念に注目が集まっています。


■新書制作作業手順

(1)8つのテーマについて説明したのちに1つを選択する。

(2)テーマに即してチームを作る。このさい偏りのないように微調整が必要。新書編集チームのメンバーが各チームの編集長となる。新書編集チームはたえず情報共有してレベルを上げていく。レベルの高いチームに合わせるよう心がける。

(3)チーム内でのクルーの分担を決める。分担のやり方には、本の章単位で分担するやり方と、チーム全体でプロセスを共有しながら進めるやり方がある。前者は機械的な役割分担になりがちで、体温の低い人の担当個所が手薄になりがちである。後者は(叩き台を提示する人とリスポンスを返す人のように)有機的な分担ができると理想的だが、かなり手数が多くなる。どちらでもよい。

(4)本を入手して、線引きしながら(付箋紙でもよい)通読する。メメ工房に課題図書は常備するが、編集上使用するため貸し出せない。私費で購入するか図書館で借りることが必要。

(5)クルーは引用集を作成してチーム内で発表する。それを叩き台にしてチームで内容を検討する。このさい議論が必要。かなり時間がかかると予想されるので、叩き台はしっかり作っておくこと。議論のさいは各人がメモを取ってチームのWorkChatグループに共有すること。

(6)チームの編集長を中心に原稿を練り込むこと。自分たちで判断できないときはメメ工房で相談してほしい。同時に表紙デザインを決める。

(7)トッパンエディナビにコンテンツを投入する。クラウド仕様なので、どこでも投入可能だが、メメ工房に入力用のパソコンを6台用意してあるので、メメ工房でも作業できる。この場合はサポートつき。編集の技術が身につく作業である。エクセルより簡単。

(8)初校。内容の訂正はここまで。修正を再びトッパンエディナビに入力する。

(9)再校。ここまでにカラー表紙デザインも確定させる。修正を入力。

(10)印刷工場に送る。あとは寝て待て。

■完成後の作業手順

(1)配付。

(2)これらを使って実際にディスカッションをしてみる。→ラジオトーク

### 08 新書制作の8つのテーマと参考文献(決定版)

到達目標(シラバス掲載) 

○ (1)現在のトランスメディア環境について総合的に知識を学ぶ。ジャンルや技術の枠組みにとらわれない視野を獲得する。 

○ (2)速攻で何でも作ってしまうクリエイターとして、いつも作品あるいはプロダクツを制作できる人になる。 

○ (3)即興的に自在なコミュニケーションができる人になる。 

◎ (4)誰にも負けない読書力をつける。 

○ (5)好きとか嫌いとかにとらわれない高いレベルの対話的知性をゼミに生み出す。 


(1)正しいチームワークの編みだし方(チーム論) 

 もちろん1人で何かを成し遂げる人はいます。けれども、ほんとうに1人で画期的な何かを成し遂げる人はごく限られています。ほとんどはチームによって何かが成し遂げられるのです。たとえ1人でやったとしても、少なくとも評価する人がいないと「何か」にはならない。たとえば、シャーロック・ホームズはワトソン博士がいるからこそ「名探偵」なんですね。 

 だからチームのことをきちんと考えましょう。なんとなくで、よいチームはできません。役割をジャンケンで決めて終わりというようなレベルではチームを組む意味がありません。チームワークには、メンバーの合計以上のチカラが生じることがあるのです。それはどういうことなのか。どうすればいいのか。基本的な考え方はどのようなものなのか。 

●ジェイソン・フリード&デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン(黒沢健二・松永肇一・美谷広海・祐佳ヤング訳)『小さなチーム、大きな仕事:働き方の新スタンダード』早川書房(ハヤカワノンフィクション文庫)2016年。 

●リッチ・カールガード、マイケル・S・マローン(濱野大道訳)『超チーム力:会社が変わるシリコンバレー式組織の科学』ハーパーコリンズ・ジャパン、2016年。 

●バーナード・ロス(庭田よう子訳)『スタンフォード大学dスクール 人生をデザインする目標達成の習慣』講談社、2016年。 


(2)弾けるアイデアをひねりだす(クリエイティブ論) 

 自由に企画せよと言われても、手ぶらでよいアイデアがひらめくことはありません。もしそれが採用されるとしても、たいてい誰も代案を言えないだけのことが多いと思います。良いアイデアをひねり出すには、知識と意欲とアンテナを持っていることが前提だと思いますが、もっと詰めて考えてみましょう。総じて大卒として就職した人がずっと定型業務に携わることは稀です。きっと何か定型業務ではない裁量的かつ創造的な何かに携わることが多くなります。とりわけ若い人には、そういう役割が期待されます。その期待に応えることができますか? 

●チップ・ハース、ダン・ハース(飯岡美紀訳)『アイデアのちから』日経BP社、2008年。 

●トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー(千葉敏生訳)『クリエイティプ・マインドセット:創造力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』日経BP社、2014年。 

●佐藤可士和『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』日経ビジネス人文庫、2016年。


(3)弱気で頑固な自分の動かし方(自我論) 

 最近、新しいことをしましたか? 昨日と同じことをしていませんか? たとえばゼミで次々に繰り出される課題に向き合って自発的に準備をするのが「おっくう」ではありませんか? 締切直前まで課題に手を付ける気がしないということはありませんか? そういうとき、あなたはあなたをコントロールできていますか? どうやったら自分を動かせるのか考えてみましょう。 

●ケリー・マクゴニガル(泉恵理子監訳)『スタンフォードの心理学講座 人生がうまくいくシンプルなルール』日経BP社、2016年。 

●キャシー・サリット『パフォーマンス・ブレークスルー』徳間書店、2016年。 

●タイラー・コーエン(高遠裕子訳)『インセンティブ:自分と世界をうまく動かす』日経BP社、2009年。 


(4)他人を変える、自分を変える、関係を変える技術(コミュニケーション技術論) 

 社会の基本単位は個人ではありません。コミュニケーションです。コミュニケーションの集積が社会の実体です。だから、この社会で生きていくためには、いつだって注意深くコミュニケーションをおこなうようにしなければなりません。コミュニケーションはある程度まで技術で乗り越えられます。メディア技術ばかりではありません。手ぶらでコミュニケーションをおこなうときにも、それなりの技術があるのです。 

●ヘンドリー・ウェイジンガー、J・P・ポーリウ=フライ(高橋早苗訳)『プレッシャーなんてこわくない』早川書房、2015年。 

●アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン(川田志津訳)『心をつなげる:相手と本当の関係を築くために大切な「共感コミュニケーション」12の方法』東洋出版、2014年。 

●ダグラス・ストーン、ブルース・パットン、シーラ・ヒーン『話す技術・聴く技術』日本経済新聞出版社、2012年。


(5)腑に落ちるデザイン(情報デザイン論) 

 魅力的なデザインはあります。同時に、わかりやすいデザインもありますね。ゼミで考えたいのは後者の方です。複雑なものごとをすとんとわからせるデザインを「情報デザイン」と言います。地下鉄の路線図や観光マップは美術的なデザインであると同時に巧みな情報デザインです。情報デザインという考え方は最近は「デザイン思考」として語られています。どういうことでしょうか。 

●D. N. ノーマン(野島久雄訳)『誰のためのデザイン:認知科学者のデザイン原論』新曜社、1990年。 

●アビー・コバート(長谷川敦士監訳、安藤幸央訳)『今日からはじめる情報設計』BNN、2015年。 

●ティム・ブラウン(千葉敏生訳)『デザイン思考が世界を変える:イノベーションを導く新しい考え方』早川書房(ハヤカワノンフィクション文庫)2014年。


(6)パッとしない自分をスイッチする(人生デザイン論) 

 情報デザインの応用編として「人生のデザイン」を考えてみましょう。私たちは過去の自分の経験から未来を想像しますが、ほんとうにそれでいいのでしょうか。さなぎから蝶が変態するように、スパッと人生路線を切り替えることはできないのでしょうか。鬱々として立ち上がれない自分をどうすれば立ち上がらせることができるのでしょう。こういうスイッチングは、ある程度までは技術的に解決できます。まずはそこまで立ち上がってみて、次のステップに進みましょう。 

●メグ・ジェイ(小西敦子訳)『人生は20代で決まる:仕事・恋愛・将来設計』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。 

●チップ・ハース、ダン・ハース(千葉敏生訳)『スイッチ! :「変われない」を変える方法』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。 

●ブレネー・ブラウン(小川敏子訳)『立て直す力:感情を自覚し、整理し、人生を変える3ステップ』講談社、2017年。


(7)学び方を学び直す(知的生活論)

 これからの長い人生を今の自分の知識在庫だけでやっていけると思いますか。みなさんから見ると、今の老人や中年の人たちの考え方って古いと思いますよね。そうです。たいていは賞味期限の切れた知識を使い回していることがとても多い。なぜなら自分の知識をアップデートしてないから。知識のアップデートなしに一生涯やっていけるわけがありません。カビの生えた陳腐な知識や考え方と縁を切る唯一の方法は勉強です。正しく言えば独学です。独学の仕方を学びましょう。 

●花村太郎『知的トレーニングの技術[完全独習版]』ちくま学芸文庫、2015年。 

●東郷雄二『独学の技術』ちくま新書、2002 年。 

●ベネディクト・キャリー(花塚恵訳)『脳が認める勉強法:「学習の科学」が明かす驚きの真実!』ダイヤモンド社、2015年。 


(8)遠くの雲のつかみ方(クラウド体験記) 

 これを読んでおられるみなさんは、すでにクラウドに跳んでいます。すでにクラウドがスタンダードになっている現代、クラウドを使いながら、その効用や落とし穴を考えてみましょう。そして未来のありようを想像してみましょう。これから企業や組織で働く人には必須の知識(新しい教養)です。 

●江崎浩『インターネット・バイ・デザイン:21世紀のスマートな社会・産業インフラの創造へ』東京大学出版会、2016年。 

●ダナ・ボイド(野中モモ訳)『つながりっぱなしの日常を生きる:ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』草思社、2014年。 

●イーライ・パリサー(井口耕二訳)『フィルターバブル:インターネットが隠していること』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。


 以上の8つのテーマごとに新書制作チームを作ります。チームのクルーは、それぞれ3冊の本を読んで、キュレーションをして、新書形式で討論資料を作成し、それでもって他のゼミ生に説明する役割を実行します。言わば「ゼミの中のエキスパート」として振る舞って下さい。演習1で必要な本はその3冊だけですので、必ず3冊買って読んで下さい。 

### 09 読書の技法

 新書制作にあたっては最初に「読書の技法」について考えておく必要があります。おそらく野村ゼミで最初に「たいへんだ」と感じるのは、読書量が格段に多いことなんです。

 たとえば、半年前に卒業したゼミ生が2年だったときには、野村ゼミ名物「メガ読み」として20冊のカルチャー本を読みました。軽いものです。なんですが、みんな自分の担当した本しか読んでおらず、しかも他の人が発表した説明もほとんど聴いていないので、じっさいには全然メガ読みにはなりませんでした。つまり

・自分が発表する本しか読まない。

・他人の発表には関心がない。

・結局、ゼミでやったことを説明できない。

 だからシューカツで「大学での勉強」を問われて立ち往生した人も少なくありません。まあ、それでもみんなそれなりのところに就職していったので「結果オーライ」なんですが、せっかく私のそばにいて、全然それが生きてこないというのが、かねてからの悩みでした。

 そこそこ人気があって、他ゼミとは一桁ちがう分量のエントリーシートをこなさないと入れないゼミなのに、今ひとつゼミ生の才能を伸ばしきれないのはなぜか。それで、健康になったここ数年、一歩進めて積極的に試行錯誤をしてきたのです。すなわち

・アクティブラーニングを取り入れる。それまでの「先生を軸にした扇型の教授モデル」をやめて、チーム中心の運営に変える。うちはこれが決定的に弱い。私も弱かったので、基礎演習2年分で大幅にアップデートしました。だから34人でも大丈夫なんです。

・すべてクラウドによる作品化を導入する。フルカラー雑誌制作については、過去十年やってきました。編集はすべてゼミ生に任せましたが、表面的なデザインに気を取られるのでコンテンツに新鮮みがありませんでした。経済学部出身者は結局、文章の内容が勝負。デザインは職人さんに任せればいい。そう考えて新書を中心にした作品づくりに切り替えました。

・特定のプロダクトやサブカルチャーのケース研究をするなかで知識や創造性やスキルを学んできましたが、じっさいには表面的な現象理解でとどまってきたきらいがあります。つまり「おたくゼミ」だった。なのでジェネラルスキルをがっちり意識してから各論に跳ぶことにしました。

・情報共有の態勢を万全にする。もうLINEじゃ間に合わない。

 一貫して変わらないのは「量をこなす」ことです。これは場数を踏む必要がありますが、慣れれば誰でもなんとかなります。ポイントは

・手数(てかず)をかける。

・才能の出し惜しみをしない。

・「自分はじつは特別な人である」という幻想を捨てる。

 というわけで、全然「読書の技法」まで行きませんでしたね。勉強の仕方については、基礎演習レベルから1段上がります。次の本は、とても参考になります。どうやら今年の夏休みは涼しいようなので、この1冊を読んでおいて下さい。質問はいつでもどうぞ。

・橋本努『学問の技法』ちくま新書、2013年。

### 10 Stockにストックする

チーム単位の打ち合わせや連絡は、チーム専用のWorkChatでおこないます。

チームで決まったことはWorkplaceに投稿してゼミ生全員に情報共有します。

完成原稿はStockに投稿します。Word書類はドラッグすると、ここに収まります。

印刷用のファイルやネット公開用のファイルは、Stockに保存することにします。

ここではファイルを軸にチャットができます。主役はファイルです。完全原稿になったものをここにアーカイブ(貯蔵)します。ここがそのまま成果物の倉庫になります。


 じつはライティングツールとしても使えます。直接、自分のノートに書けばいいんです。Stockに満足できなくなったらEvernote(無料)をおすすめします。

 ゼミのStock管理は工房管理チームに権限があります。

### 11 野村ゼミの構造

■場所

土曜日1303教室、拠点815研究室=MesoMediaFab■2種類のチーム

運営チーム×6

新書チーム×8

■6つのクラウドサービス

Workplace by Facebook(タイムライン、プロセス管理)

Toppan Editorial Navi(編集システム)

Stock(アーカイブ、タスク管理、文書中心チャット)

G-Suite(Chromeによるセキュリティ管理)

プリスタ(名刺制作)

MEME PAPER(リーフレット制作)

■協力企業

凸版印刷株式会社

Google

LinkLive Inc.

■経費支援

國學院大學特別推進研究助成金

管理 研究開発推進機構事務課(AMC5F)

■アドバイザリーチーム

美奈子Breadsmith様(from Crossmedia Inc.)

野村ゼミOBOG有志

野村ゼミ12期生(4年生)有志

### 12 KGI.TOKYOアカウント一覧

グーグル上にある@kgi.tokyoのアットマークの前を決めました。これでStockに登録します。このアカウントは自由に使って下さい。グーグルの有料ビジネス用と同じ仕様です。審査を受けてアカデミックとして無料で運営しています。ふだんは工房管理チームが管理しています。サイト全体は野村が管理しています。ただしサーバー管理者ではないので、メールの内容などを見ることはできません。できるのはアカウントの登録や削除などです。

(省略)

## Stock採用理由書

Stock採用に関する理由書

 平成29年度國學院大學特別推進研究助成金採択プロジェクト「中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回」(研究代表者・野村一夫)において、LinkLive社のクラウドサービスStockを使用します。このサービスは申請時には公開されていなかったもので、プロジェクト開始直後に被験者である学生から教えられたものです。当時試用期間であったので、すぐに試してみて、のちに採用しました。


サービス名 Stock

企業名 株式会社リンクライブ / Link Live,Inc.

代表者 代表取締役社長 澤村 大輔

設立 2014年4月1日

事業内容 ITサービス関連事業/事業戦略コンサルティング

所在地 〒101 - 0047東京都千代田区内神田2丁目15番地2号 内神田DNK-RO 10号室

http://www.linklive.co.jp


 Stockを採用した理由は以下の通りです。

 当初、クラウド上のライティングスペースとしてGSuiteを予定していましたが、被験者の学生が使い切れず、共有範囲の調節もむずかしいために、クラウド上のライティングスペースを探しました。Stockは業務用の文書管理クラウドなので、特定の文書にコメントが付けられます。共有範囲も微調整できるのが好都合です。

Wordでできそうなものですが、Wordで書かれた原稿をクラウド上に置き換えるのが、ひと手間かかります。加えて古いWordの予期せぬ指定が悪さをして、途中でエラーがでます。この指定は見えないので苦労します。というわけで使えません。

文書管理クラウドとしてはサイボウズ社のKintoneがありますが、1人あたりの月額料金になっていて、被験者の学生の人数を契約するとなると高価です。

 Stockであれば、スマートフォンでも文章が書けます。これはパソコンを所有していない学生に書かせるためにはとても都合がいいです。

 チーム単位で原稿を書き、それをまた修正する作業に向いています。しかも、かなりシンプルなのがとても使いよいと思います。同様のクラウドサービスとしてはEvernoteがありますが、こちらは複雑で、リテラシーが高くないと使えません。とくに共有の設定をまちがえるとリスキーな事態が発生しますので、クローズドであることを保証してもらえるサービスでなければなりません。これはGSuiteもOffice365も同様です。

 登録を一斉に「招待メール」という形でできるので、まとまった人数を登録するのに向いています。

 以上の理由でStockを採用します。Stockは2018年1月から課金を始めて本格運用に入るそうです。中小企業向けのサービスになります。本研究プロジェクトは学術的な試用にあたりますので、アカデミックとして扱ってもらうことができました。格安であるだけでなく、登録人数に関係なく、本研究の管理下にある者を登録して、月額固定料金にしてもらいました。これは本プロジェクトがLinkLive社にとって初めてで唯一の高等教育機関であるために、ビジネス的にも用途開発的にも試験的な運用になるための配慮になります。

 したがいまして、本研究の期間内の2月と3月分の支払いをお願いしたいと考えます。

平成30年1月10日

研究代表者 野村一夫(経済学部教授)


## 作業の経緯

 授業の作品化プロジェクトは平成29年10月から30年2月までの限られた期間において2年生ゼミのメンバーだけで実行したものである。そのプロセスはWorkplace by FacebookとWorkChatに克明に記録しておいた。これらはFacebookが作った業務用SNSであって、厳密に閉じたフォーマットになっている。それをそのまま公開することはできない。しかし、このバックヤードの膨大なコミュニケーションこそが「授業の作品化」の動態的なプロセスなのである。作品化とは、作品に向かって一定の記法によって構築していく過程なのである。この過程は、そのままアーカイブ化してあるので、この試みに深い関心のある方にはアカウントを発行できる。またWorkplace by Facebook内の主要な作業グループのタイムラインであるニュースフィード「スタートアップ」「キックオフ」「トランスモード」およびメインのグループチャット「ティータイム」については丸ごと画像としてキャプチャーして冊子体にしてある。これだけで444ページある。このコミュニケーションの集積をデザインしてドキュメントとして残すことも「授業の作品化」なのである。

 サンプルとして差し障りのなさそうなページをランダムに写真として紹介する。


 このプロセスの詳細な分析は、その後のゼミ生の成長過程を踏まえて平成30年度特別推進研究においておこないたい。確認しておくが、この時点でかれらは大学2年生である。


## 科学研究費助成金申請

 本学特別推進研究助成金の義務として科研費申請がある。申請が不採択の場合でも少しでも研究実績を積み上げておきたいというのが研究者としての思いである。

 私の研究プランは連続して不採択であったので、1人ではムリと判断して、大阪大学コミュニケーションデザインセンターの池田光穂教授に共同研究者をお願いした。池田教授とは過去に医療社会学系の外部資金による共同研究を3回した間柄であるが、大阪大学に行かれてからは、ほぼ同じ頃に國學院大學に情報倫理の教員として就任した私とは、方向がかなり相違していた。しかし私がかなり高等教育論に傾斜してプランを考えるようになったのは池田教授の教育実践の影響もあってのことであり、私のプランにも共同研究の余地ありと見なしていただけたということである。

 議論は主にFacebook上のMessengerでおこなった。ほぼ毎日、数回から数十回の意見交換をした上で以下のような申請書を書き上げた。ここに到ったこと自体が本研究助成の成果であると考えている。


研究計画調書の概要

1 研究目的および研究方法

研究目的

 従来、社会学教育そのものが議論されることは数えるほどしかなかった。しかし、ここ10年で大きく様変わりし、日本学術会議の参照基準のように議論の足場が設定されつつある。しかし「能動的学習者が社会学的知識に接近するにはどのような方法がありうるか」といった学習者視点の議論には届いていない。本研究はその試案づくりに挑戦する。

 本研究では「社会学教育におけるコミュニケーションをどのようにデザインすれば学習者が社会学的知識とスキルを能動的に学べるか」を知識理論的かつ実践技法的に明らかにすることを目的とする。「どのようにデザインすれば」の部分が「コミュニケーションデザイン」の問題となる。

研究方法

 本研究では上記の課題を方法論的に3つの問題系に分けて研究を進める。

 第1の問題系は「知識理論から社会学教育を再定義する」研究である。これは脱領域的な理論研究としておこなう。国際バカロレア「知の理論」(Theory of Knowledge)を始めとする高等教育の動向と、学習の考え方を一転させる認知科学の動向を批判的に評価した上で「学習者による知識とスキルの能動的学習」の視点から社会学教育の土台となるべき知識理論を「社会知の理論」として再定義する。

 ここで想定されている「社会知の理論」のフレームワークに関する現時点での仮説は次の通りである。高等教育において主体的に学習されるべき内容は「研究成果の薄められたヴァージョン」ではなく、社会の中に埋め込まれた共有知識の特定の階層である。その階層を「社会知」と総称することにすると、社会学教育は「社会知の理論」を用意しなければならない。この仮説を正確かつ詳細に記述するために高等教育論・認知科学・科学論・広義の知識社会学などの文献にあたり、学習者視点からの知識理論を組み立てる。

 第2の問題系は「社会知に関する学習者の表現実践(制作)のためのクラウド環境のデザイン」である。本研究では、ミクロ場面において能動的な学習を引き出す有力な方法として「作品制作」に注目する。なぜなら、何かを作らなければならないときには必ず能動的学習が生じるからである。個人であれチームであれ、どこかで能動的にならないと作品はできない。これまで申請者は作品制作を目標にした授業実践研究プロジェクトを平成28年度と29年度におこなっているが、これまでの研究に拠れば、教員の任務は適切な問題設定と環境作りにある。あとは学生が決めればよい。このように「作品制作」環境のコミュニケーションデザインを主軸に据えると、メゾレベル(教員1人で100人以上の授業)においても能動的学習が可能ではないか。これがこの問題系の最も挑戦的な課題となる。

 第3の問題系は、「マクロウィキノミクス」原則による社会知協働構築のためのコミュニケーションデザインを明らかにすることである。換言すると、どのようにコミュニケーション環境をデザインすれば、社会学が能動的学習者と出会えるのかを問うことである。

 能動的学習を志向するコミュニケーション環境を形成するのに必要なのは、学習者に「応答すべき仕掛けや表現手段」を用意することである。このアプローチによって「社会学の能動的学習のためのコミュニケーション環境をデザインする」ことを目指す。このデザインの基本方針と知識内容を決めるのが「社会知の理論」である。

 具体的には、以上3つの問題系をさらに6つの作業に分割して進行させる。番号は着手開始の順序になっている。具体的には、ほぼ毎日、クラウド上に設置したベース上で議論を続ける。その上で年間12回を基準に研究会を開催し、そこで1段階ずつ研究成果を吟味して確定していく。クラウド上にはすべての議論とプロセスが記録され蓄積される。部分的には、そのまま公開もできる。

[image:3633860C-9C5E-4C89-9D18-64BF9A841C13-20416-000057400563336D/スクリーンショット 2019-02-12 13.04.06.png]


 3年目に報告書にまとめるものとする。研究期間内に5つの論点に即して論文を公開し、このあとの出版につなげたい。研究に遅れが生じた場合は、⑤の詳細を次期研究課題として、本研究計画内では理論的方針の提示までにとどめることになる。②③については漫然と進めるのではなく、ある程度のめどが立った段階で終了させ、⑤⑥にエフォートを集中させる。


2 挑戦的研究としての意義

(1)教育思想の転換。各種教育指針の考え方を精査し、認知理論的転回の意味を明らかにすることで、社会学教育に埋め込むことが求められる複数のファクターを確定できる。とくに能動的学習がデザインされたコミュニケーションの中で応答として生じるという知見から、実践的かつ具体的な環境設計に進むことができる。

(2)能動的学習を引き出す環境設計の提案。社会学教育におけるコミュニケーションをマクロ局面では「マクロウィキノミクス」原則でデザインし、ミクロ局面ではクラウド環境を利用した「作品制作」を有効に活用する教育実践を実地におこなうことによって、学習者の知的エンジンを作動させる環境設計を立体的に提案できる。メゾレベルにも挑戦する。

(3)社会知の理論の提案。社会知の理論として社会学教育を再定義してヴィジョンを明らかにすることで、社会学教育そのものを研究する分野を新たに開

拓する。


3 応募者の研究遂行能力

 申請者2人はディシプリンの枠を越えて社会学理論と知識理論の研究をしてきた。健康主義に関する一連の共同研究も構築主義的な知識理論に基づいている。クラウド環境に関する利用技術に関しても、学習者の表現実践に関するプラットフォームを適切に設定でき、研究成果も随時公開できる。研究室の設備も先行プロジェクトにより整備されている。


 以上が概要である。以下が申請書本文である。


1 研究目的及び研究方法

研究課題名「知識理論の再編による社会学教育の再構築とコミュニケーションデザイン」

本研究の目的

 従来、社会学教育そのものが議論されることは数えるほどしかなかった。しかし、ここ10年で大きく様変わりし、日本学術会議の参照基準のように議論の足場が設定されつつある。しかし「能動的学習者が社会学的知識に接近するにはどのような方法がありうるか」といった学習者視点の議論には届いていない。近年の教育技術の急速な発達や、人工知能に直結する認知科学の進展などと比較すると、諸学をリードするどころかキャッチアップもできていない現状を認めざるを得ない。社会学の強力な俯瞰能力や批判能力を知る者としては危機感をもつ。とりわけ大きな弱点となっているのは「知識の教授」の視点から離れられないことである。たとえば「能動的学習者が社会学的知識に接近するにはどのような方法がありうるか」といった学習者視点の議論は追求されていない。そして、これこそ近年の教育理論や認知科学が強力に推進している研究領域なのである。

 これに対して本研究では「社会学教育におけるコミュニケーションをどのようにデザインすれば学習者が社会学的知識とスキルを能動的に学べるか」を知識理論的かつ実践技法的に明らかにすることを目的とする。

 上記の「どのようにデザインすれば」の部分が「コミュニケーションデザイン」の問題となる。能動的学習は自然には生じない。ネット上の書き込みに見られるように、かりに生じたとしても「けもの道」に入りがちである。これは、学習者のコミュニケーション環境を周到にデザインする必要があるということを示している。このコミュニケーションデザインの問題に社会学者はどれだけ系統的に取り組んできただろうか。本研究では、この問題に正面から向き合い、社会学教育に関する系統的な「理論と技法」一式を提案するところまで行きたい。


研究目的を達成するための研究方法(研究体制ほか)

(1)概要:2つのアプローチ

 本研究では、知識理論研究と実践技法研究の2つの方向からアプローチする。

 第1に知識理論研究では、国際バカロレア「知の理論」や諸学の認知科学的転回に対する知識理論的検討を梃子にして、これからの社会学教育が解決しなければならない論点を明らかにする。このアプローチによって「知識理論から社会学教育を再定義する」ことを目指す。

 第2に実践技法研究では、社会学的知識の能動的学習を促進するために、学習者のコミュニケーションをどのようにデザインすれば有効なのかについて研究する。能動的学習を志向するコミュニケーション環境を形成するのに必要なことは、学習者に「応答すべき仕掛けや表現手段」を用意することである。このアプローチによって「社会学の能動的学習のためのコミュニケーション環境をデザインする」ことを目指す。

(2)基本仮説とスケジュール

 これまでの先行する研究プロジェクトを経て得られた研究成果から、本研究では次のような基本仮説に基づいて研究を進めるものとする。

 能動的学習を志向するコミュニケーション環境を形成するのに必要なのは、学習者に「応答すべき仕掛けや表現手段」を用意することである。このアプローチによって「社会学の能動的学習のためのコミュニケーション環境をデザインする」ことを目指す。このデザインの基本方針と知識内容を決めるのが「社会知の理論」である。

 具体的には、以上3つの問題系をさらに6つの作業に分割して進行させる。番号は着手開始の順序になっている。具体的には、ほぼ毎日、クラウド上に設置したベース上で議論を続ける。その上で年間12回を基準に研究会を開催し、そこで1段階ずつ研究成果を吟味して確定していく。クラウド上にはすべての議論とプロセスを記録して蓄積する。


[image:084F5637-6F21-484D-8B8B-CE01870F7D5F-20416-00005775EB1F8934/スクリーンショット 2019-02-12 13.04.06.png]

(3)3つの問題系と6つの作業

 第1の問題系は「知識理論から社会学教育を再定義する」研究である。これは脱領域的な理論研究としておこなう。

①各種教育指針の批判的評価 現代の高等教育を底上げしようとする各種教育指針を検討する。たとえば国際バカロレア「知の理論」(Theory of Knowledge)は、さまざまな知識のありようを根源的に認識することを推奨している。社会学の知識在庫と照合して、その社会学的意義を明らかにする。→論文として公開

④社会学教育の認知科学的転回 心理学などが次々に「認知科学的転回」とも呼びうるパラダイムチェインジをおこなっている。認知科学的転回をするか否かは、コンピュータサイエンスに直結する点で、現代の学術研究として重要な判断である。認知科学は学習の考え方を一転させるので、ここが社会学教育のリスタート地点となる。「認知科学的転回」に関する論文を作成し、社会学教育への適用可能性を検証する。→論文として公開

⑤「社会知の理論」のフレームワーク ①と④の研究は「社会知」と呼びうる知識領域の社会学的再編を予告するものになると予想される。「社会知の理論」として社会学の知識在庫を位置づける。ここで想定されている「社会知の理論」のフレームワークに関する現時点での仮説は次の通りである。高等教育において主体的に学習されるべき内容は「研究成果の薄められたヴァージョン」ではなく、社会の中に埋め込まれた共有知識の特定の階層である。その階層を「社会知」と総称することにすると、社会学教育は「社会知の理論」を用意しなければならない。この仮説を正確かつ詳細に記述するために高等教育論・認知科学・科学論・広義の知識社会学などの文献にあたり、学習者視点からの知識理論を組み立てる。→論文として公開

 第2の問題系は「③社会知に関する学習者の表現実践(制作)のためのクラウド環境のデザイン」である。

 この問題系では主としてミクロ場面に焦点を定める。ここでは、社会学への能動的な学習を引き出す有力な方法として「作品制作」に注目し、最新のクラウド環境とアナログ的なメディア制作活動によって学習者間のコミュニケーションを飛躍的に活性化させる環境デザインを実地検証の上で具体的かつ実践的に提案する。→論文として公開

 「作品制作」環境のコミュニケーションデザインを主軸に据えると、メゾレベル(教員1人で100人以上の授業)においても能動的学習が可能ではないか。これがこの問題系の挑戦的課題となる。

 第3の問題系は、マクロレベルにおいて第2問題系と同様のことを可能にするコミュニケーション環境がデザインできないかという問題系である。すなわち③「マクロウィキノミクス」による社会知協働構築のためのコミュニケーションデザインを明らかにすることである。換言すると、どのようにコミュニケーション環境をデザインすれば、社会学が能動的学習者と出会えるのかを問うことである。コラボレーション、オープン、共有、公正さの4原則をいかに社会学教育というコミュニケーション現場に落とし込んでいくかを実地検証の上で具体的かつ実践的に提案する。→論文として公開

(4)報告書作成と公開

⑥報告書作成と公開 研究期間内に上記5つの論点に即して論文を公開して、それを3年目に報告書にまとめる。そののち出版して広く世に問いたい。なお、何らかの理由によって研究に遅れが生じた場合は、⑤の詳細を次期研究課題として、本研究計画内では理論的方針の提示までにとどめることにする。


本研究を実施するために使用する研究施設・設備・研究資料等、現在の研究環境の状況

①研究施設・設備・研究資料等 國學院大學渋谷キャンパスでおこなう。野村の研究室がここにあり、図書館・教室・食堂などが完備している。研究室の設備はすでに学内研究プロジェクトにより整備されている。表現実践を支援する環境もクラウドサービス委託を前提に構築済みである。すべてクラウドにすれば高価な機材がいらずセキュアである点で教育現場への導入に適している。また、公開範囲を厳密に管理する点でオンデマンド印刷が適している。使用しているクラウドサービスは、Workplace by Facebook、G-Suite、Stock、Toppan Editorial Navi、MEME PAPERである。とくに現在唯一の出版社用日本語編集クラウドToppan Editorial Naviと用途開発において協力関係にある。このシステムではじめて印刷製本化された本は、じつは私たちの先行研究プロジェクトの成果物である。このシステムは高等教育用の表現実践メディアとして非常に大きな可能性をもつ。

②現在の研究環境の状況 現在進行中の学内研究プロジェクトの一環として研究室を「メゾメディア工房」(MesoMediaFab)として整備した。少人数の研究会であれば、ここでできる。学生やゲストを交えての研究会の際は教室を手配できる。


2 挑戦的研究としての意義(本研究種目に応募する理由)

本研究種目は、これまでの学術の体系や方向を大きく変革、転換させる潜在性を有する挑戦的研究を募集するものです。本欄には、

* これまでの研究活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯

* 学術の現状を踏まえ、本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか

について1頁以内で記述してください。

※特設審査領域に応募する場合は、③「本研究構想が当該特設審査領域に合致する理由」についても記述してください。

①これまでの研究活動を踏まえ、この研究構想に至った背景と経緯

 野村の研究活動の多くは社会学教育に照準を合わせたものである。教科書づくりから始まった単独の著作活動は、社会学教育およびリベラルアーツに関する知識のあり方とメディア環境との関連領域に関するものである(この経緯については論文「社会学を伝えるメディアの刷新」『社会学評論』第232号、2005年を参照)。

 主たる論点は、知識理論、見識ある市民(新しい大人)、インターネット、社会学教育、メディア実践である。リベラルアーツを現代のメディア環境に即して「インフォアーツ」として再定義することも提案した。いずれも社会学に準拠した教育的情報空間の協働的構築を提案したものである。本研究計画は、この一連の構想の延長線上にある。

 しかし今回の研究計画では、知識理論の研究に大きくシフトさせている。これは近年の高等教育論と隣接分野の大きな転換を考慮したものである。とくに国際バカロレア「知の理論」にヒントを得た。そして気づかないでいられなかったのは、単著『リフレクション』(文化書房博文社、1994年)でラフに提示したまま放置してきた「知識過程」という概念である。ここから社会学教育研究の知識理論をリスタートできると考えたのが本研究構想に至った背景である。

②学術の現状を踏まえ、本研究構想が挑戦的研究としてどのような意義を有するか

 (1)教育思想の転換。「教授」(ティーチング)から「学習」(ラーニング)に大きく舵を切った高等教育論の研究動向を「認知科学的転回」と評価して、社会学教育も大きく舵を切ることを提案する。各種教育指針の考え方を精査し、認知理論的転回の意味を明らかにすることで、社会学教育に埋め込むことが求められる複数のファクターを確定できる。とくに能動的学習がデザインされたコミュニケーションの中で応答として生じるという知見から、実践的かつ具体的な環境設計に進むことができる。

(2)能動的学習を引き出す環境設計の提案。社会学教育におけるコミュニケーションをマクロ局面では「マクロウィキノミクス」原則でデザインし、ミクロ局面ではクラウド環境を利用した「メディア制作」を有効に活用する教育実践を実地におこなうことによって、学習者の知的エンジンを作動させる環境設計を実践的かつ具体的に提案できる。メゾレベル(中規模教室の授業)にも挑戦する。

(3)社会知の理論の提案。社会知の理論として社会学教育を再定義してヴィジョンを明らかにすることで、社会学教育そのものを研究する分野を新たに開拓する。

 その他に、技術的な開拓として、発信環境をクラウドに委託することで安全かつ臨機応変に対応可能にする仕組みの開発がある。とくに印刷物について、従来の教育成果物は、学習者間で共有されることがなく、学習者の社会的なスキルとならず、しかも品質が悪いので外部から評価されなかった。ところがここ数年でクラウドサービスが急速に進化し、特別な装置を購入することなく編集製版印刷ができるようになった。このことは高等教育の現場においてほとんど共有されていない。


3 応募者の研究遂行能力

本欄には応募者の研究遂行能力を示すため、これまでの研究活動の具体的な内容等について1頁以内で記述してください。必要に応じて今回の研究構想に直接関係しないものを含めても構いません。

 申請者2人はディシプリンの枠を越えて社会学理論と知識理論の研究をしてきた。健康主義に関する一連の共同研究も構築主義的な知識理論に基づいている。クラウド環境に関する利用技術に関しても、学習者の表現実践に関するプラットフォームを適切に設定でき、研究成果も随時公開できる。研究室の設備も先行プロジェクトにより整備されている。

●研究代表者(野村一夫)

 野村は社会学者である。社会学史研究とコミュニケーション論から出発して、その後、社会学教育論とメディア文化論を主たる研究領域とする。勤務校では情報メディアコースに設置された「情報メディア問題入門」や「情報倫理とセキュリティ」などを担当している。

①社会学教育領域 『社会学感覚』(1992,1998)『社会学の作法・初級編』(1995)『子犬に語る社会学』(2005)『未熟者の天下』(2005)『ゼミ入門』(2014)の単著がある。論文として「インターネットと大学教育のクロスロードで」(1997)「ネットワーク時代における社会学教科書の可能性」(2003)」「社会学を伝えるメディアの刷新」(2006)などがある。

②知識理論 本研究に直結する分野である。『リフレクション』(1994)がある。緻密なものではないが、社会学教育を前提として「見識ある市民」における社会学的知識の意義を300ページ程度で全体像を描いた。

③インターネット論 1995年以来、いくつかの論文などで書いた内容は、単著『インターネット市民スタイル』(1997)『インフォアーツ論』(2003)に集約されている。

④健康文化の知識社会学 池田を研究代表者とする一連の共同研究がある。『病気と健康の日常的概念に関する実証的研究』平成11年度〜13年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))など。その他共同研究の成果物として『健康論の誘惑』(2000)『文化現象としての癒し』(2000)『健康ブームを読み解く』(2003)の共著がある。

⑤メディア制作による授業実践 過去10年間「学部共同研究」として情報教育研究を続けてきた。その上で平成28年度國學院大學「特色ある教育研究」として「すべてクラウドによる授業の作品化:メゾメディア活用実践研究」を遂行した。すべてクラウド上で授業成果物(1年間で新書7冊)を制作したのは日本初である。これはアクティブラーニングの次の局面を試行した教育研究である。平成29年度はさらに國學院大學特別推進研究採択「中間知識とメゾメディア」プロジェクトを推進中である。

●分担研究者(池田光穂)

 池田は文化人類学者である。とくに医療人類学に関する夥しい数の研究業績がある(http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/gyosekiy2k.html)。さらに10年前から大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授として、主として大学院生(その多くは理系)のリベラルアーツ開発をめざして、アクティブラーニングのスタイルで斬新な教育活動をおこなってきた。その中で社会学の導入も活発におこない、野村の社会学的問題関心とシンクロするようになった。教育プロジェクトの教材はそのつどすべて新規に開発され、ウェブ上に公開あるいは限定公開されている。その数は5000ページを越える。野村はそのプロセスのほとんどを認識しており授業に参加したこともあるが、一般の社会学者がおこなっている社会学教育よりもはるかに社会学的であると高く評価する。


4 人権の保護及び法令等の遵守への対応(公募要領4頁参照)

本欄には、本研究を遂行するに当たって、相手方の同意・協力を必要とする研究、個人情報の取り扱いの配慮を必要とする研究、生命倫理・安全対策に対する取組を必要とする研究など法令等に基づく手続が必要な研究が含まれている場合、講じる対策と措置を、1頁以内で記述してください。

個人情報を伴うアンケート調査・インタビュー調査、提供を受けた試料の使用、ヒト遺伝子解析研究、遺伝子組換え実験、動物実験など、研究機関内外の倫理委員会等における承認手続が必要となる調査・研究・実験などが対象となります。

該当しない場合には、その旨記述してください。

 本研究の遂行にあたっては、日本社会学会による「本社会学会倫理綱領」(http://www.gakkai.ne.jp/jss/about/ethicalcodes.php)および「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」(http://www.gakkai.ne.jp/jss/about/researchpolicy.php)を遵守するものとする。

 また高度なクラウド環境において受講者の表現行為を作品化するにあたり、情報処理学会の「倫理綱領」および「なぜ倫理綱領が必要か」(http://www.ipsj.or.jp/ipsjcode.html)に準拠する。より一般的には「電子情報通信学会倫理綱領」(https://www.ieice.org/jpn/about/code1.html)も参照する。

 これらの綱領と研究指針については、研究の各年度の初回の研究会ごとに、事前にクラウドで共有し印刷配布もして、倫理上のミスコンダクトがおこらないように留意したい。

 研究の進行過程に関しては本学の研究関連諸規定(https://www.kokugakuin.ac.jp/research/policy)を遵守するものとする。研究経費の執行については、本学の研究開発推進機構事務課がすべて代行する。

 技術的には各種クラウドを組み合わせて使用するが、実地検証に参加する学生にアカウントを取らせるため、暗号化はもちろん、2段階認証も加えて万全の対策を取る。アカデミックとして無料のものも含めてクラウドはすべて業者委託することになるので、信頼性の高いクラウドのみを吟味して使用し、トラブルがあったさいの自動通知や運営状況のチェック体制を構築する。以上のことは、すでに先行研究プロジェクトの中で経験値として蓄積されている。情報漏えいを徹底的に管理し、研究者ならびに研究に参与する人たちの人権擁護に配慮する。

 この点については、制作物の公開・非公開・限定公開を明確に峻別し、学習者との合意の元で公開の範囲を厳密に判断し、書類化して保管するものとする。学習者にとって利益にならないことはおこなわない。


## 論文の卵の産み方

2年ゼミでは、私の企画をアクティブラーニング形式で順次進めていった。通常のアクティブラーニングでは分単位で作業を進行させるから、正確にはグループ討論を媒介したPBLと言うべきかもしれない。2年ゼミ生34名を8つのグループに分け、各グループに3冊の図書を指定し、それを解体構築あるいはリバースエンジニアリングする形でテーゼ集を作ってもらった。図書は夏休み以前に指定しておいたものの、ゼミ自体は後期から始まるので、事前に読んでいた学生は皆無で、大急ぎで3冊を読んでもらって、そこからテーゼを抜き出し、テーゼ集としてセレクトしたのちに、そのテーゼの解説を執筆するという流れである。テンプレートはあらかじめ提示しておいた。それは次のようなものである。


### テンプレート

自らの強みに集中する

不得手なことの改善にあまり時間を使ってはならない。自らの強みに集中すべきである。

ドラッカー(1999=1999: 199)

解説

 ドラッカー晩年の著作の一節。ドラッカーは「マネジメント」の重要性を発見した人だが、たんに経営者哲学にとどまらず、組織の中で働く人の生き方についても多くの指南を与えている。漠然とした人生論ではない。組織に置かれた人への具体的なアドバイスである。

 このテーゼは、近年よく言われることの真逆である。「不得意なところをなくしなさい」というのが普通であろう。ドラッガーは、そんなことに労力をさいていたら、いくらがんばっても並のレベルにしかならないとし、それよりも得意分野を徹底的に伸ばした方が楽だし、組織への貢献になると言うのである。

 では「自分の強み」とは何だろう。ドラッカーは別のところで、案外、人は自分の強みをわかっていないというようなことを書いている。

論点

(1)不得意科目を捨てるのは得意だ。すでにやっていることかもしれない。そういうことと何が違うのか。

(2)不得手なことを改善しないと、のちのちトラブルになるんじゃないのか。

(3)不得手なことは、ほっといてもやらないから、別にドラッカーに言われなくてもわかる。でも、そういうことではないの?

(4)自分の強みって、自分ですぐにわかるものだろうか。他人に聴いた方がわかるかも。

(5)勉強の場合だと、どういうことになるの? 就職のときはどうなの?

コメント

 不得意なことを改善しないとダメ人間になってしまうように思いがちだが、組織の中では全部やらなくてもいい。不得意なことをやってくれる相棒とチームを組めばいいんじゃないか。その相棒が不得意なことを自分が得意であれば、きっとうまく行く。だから何かしらの強みをしっかり伸ばしておくことが大事なんだと思う。(野村一夫)

参考文献

P.F. ドラッガー『明日を支配するもの』(上田惇生訳)ダイヤモンド社、1999年。

P.F. ドラッカー『[英和対訳]決定版ドラッカー名言集』(上田惇生編訳)ダイヤモンド社、2010年。

### 執筆メモのテンプレ

基本的には「テンプレの解説」に沿って、メモしていきます。直接、Stockに「テンプレの解説」全文をコピペして、それに沿ってメモして下さい。字数は意識しなくてもいいです。

●タイトルはワンフレーズで。キャッチコピーと同じ。ただしウソはつかない。

 キャッチコピーと同じなので、1つとは言わず複数考えて、チームで揉んでもらうのがベスト。

 テーゼの一部分を抜き出してもよい。

●テーゼ(引用文)は短めに。これも引用しようと思った個所が長いので半分を削除した。削除した部分は「解説」で補えばよい。

 正確に引用すること。チームでチェックすると良い

●引用個所の文献注を必ず付ける。著者名+全角カッコ+原著刊行年+イコール+訳書刊行年+半角コロン+半角アキ+ページ+全角カッコ閉じ

 執筆メモの段階で、ここは確定。

●解説は、文脈を軽く説明して、引用部分を取り上げた理由を説明する。取り上げた理由は主観的なものなのでよい。改行は2つか3つ。

 テーゼの周辺を眺めて、文脈を思い出す。そのテーゼが含まれている小見出しを参照する。

●論点は全角カッコの中に全角数字を入れて箇条書きにする。このテンプレのように細かく5つまで提示する方法でもよいし、2つぐらいに絞って「ああでもない、こうでもない」と論じてもよい。

 少なくとも2つぐらいは持参して、あとはチームで出た意見などをメモしておく。

●コメントは主観的でよいし、チームでの議論を反映させてもよい。感想ではなく「こう考えてみた」風がよい。好きか嫌いかはどうでもいいじゃん。

 コメントが担当者の見解を自由に表現できるコーナーになる。何を書いてもいいが「ふざけ」だるけはダメ。ユーモア表現はオーケー。「ふざけ」は内輪受けなので、内輪でない人からは「ばか」にしか見えないから。

●参考文献の書式をマネしてほしい。

 各チーム3冊だけなので、コピペすればよい。

●最後に担当者の名前を書く。実名のみ。しかるべきシーンで「ほう、君はどこを書いているの?」と言われたときに、実名でないと意味がない。難読の名前の場合は「担当 野村一夫(のむらかずお)」と書く。「れいな」か「れな」か、読者にちゃんと意識させよう。


### 本にする

 本にする作業はトッパンエディナビを使用して、学生たち自身が投入して編集作業をやった。12月に仕上げたチームから何人かが遅れたチームをサポートし、私は作業が進展しない3つのチームに直接入って指導した。チームで議論していない原稿は最終段階ですべて削除した。チームで議論することが重要だからだ。

 論文の卵の産み方シリーズは8冊あって、それぞれが独立して見られる可能性があったので、すべてに重複して「まえがき」と「解説」を書いておいた。その内容は次のものである。


 本書は、平成29年度國學院大學特別推進研究助成金に採択された「中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回」(研究代表者・野村一夫経済学部教授)プロジェクトの基軸的企画として、平成29年度「演習Ⅰ」(2年生)受講生34名によって制作された「論文の卵の産み方」シリーズ計8冊のうちの1冊である。

 詳しい解説は末尾の説明を見ていただくことにして、本書のテーマについて述べておきたい。

 本書は私が提示した8テーマのうちの1つである。このテーマを選択したメンバー4人で「クリエイティブ論チーム」を結成し、3冊の課題書をチーム全体で読破し、これはと思う1文をテーゼとして選択し、それに解説・論点・コメントを付けていったものである。

 私が提示した本書のテーマは次のようなものである。以下Workplace by Facebookの投稿からの引用。

***

弾けるアイデアをひねりだす(クリエイティブ論) 

 自由に企画せよと言われても、手ぶらでよいアイデアがひらめくことはありません。もしそれが採用されるとしても、たいてい誰も代案を言えないだけのことが多いと思います。良いアイデアをひねり出すには、知識と意欲とアンテナを持っていることが前提だと思いますが、もっと詰めて考えてみましょう。総じて大卒として就職した人がずっと定型業務に携わることは稀です。きっと何か定型業務ではない裁量的かつ創造的な何かに携わることが多くなります。とりわけ若い人には、そういう役割が期待されます。その期待に応えることができますか? 

●チップ・ハース、ダン・ハース(飯岡美紀訳)『アイデアのちから』日経BP社、2008年。

●トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー(千葉敏生訳)『クリエイティプ・マインドセット:創造力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』日経BP社、2014年。

●佐藤可士和『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』日経ビジネス人文庫、2016年。

***

 見開き2ページで1項目としてほぼ50項目ある。これらはたんなる「テーゼとその感想」と言ったものではない。1項目で小さなミニ論文のスタイルになっていることに注目していただきたい。言わば「論文の卵」である。参考文献から知識の最小単位を取りだして、タイトルを付与し、正しく引用し、出典を表示し、前後の文脈を要約しておいた上で論点を引き出す。それに対してチームとして議論したことをコメントにまとめておく。これが論文の最小単位である。これらを集積してレポートや研究ノートそして1段高いレイヤーに視点をあげることで論文にすることができる。今回は後期からゼミに入ったばかりの2年生なので、まずは「論文の卵」をたくさん産んでもらうことにした。

 次の段階では、この本を素材にワールドカフェなどによるディスカッションをおこなう。自分が担当していない他の7冊もこのディスカッションの中で「自分の作品」にできるはずである。それをそのままラジオトークとして記録し公開する。ここまでの中心的理念は「知性は対話の中に宿る」ということである。項目ごとに担当者の名前は記載されているが、事前にチーム内で執筆内容について議論してほぼ確定した段階で分担執筆している。知性はこうした作品制作チームの活動の只中に宿っている。そこに個人の力量を超えるための学びがある。

 「論文の卵の産み方」シリーズは、論文執筆への3段跳びのホップにあたる。これから3年生前期がステップ、後期がジャンプになる。これらの活動のすべては2017年に公開されたばかりのWorkplace by FacebookとStockを基軸とするクラウドに記録されている。新書制作にはトッパン・エディトリアルナビを活用した。私はこれらのクラウド環境を用意して方向性を提示しただけで、実質的な制作はすべて学生によってなされたものである。ただし学生たちの校了直後にエディナビの改修があり、若干の仕様変更があったため、最後にレイアウト調整をおこなった。この点で学生たちの意図とは若干の相違があることをお断りしておきたい。


2018年1月28日

野村一夫


平成29年度國學院大學特別推進研究助成金採択プロジェクト

「中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回」

研究代表者 野村一夫(経済学部教授)

R707FF@kokugakuin.ac.jp

〒150-8440

東京都渋谷区東4-10-28国学院大学経済学部

815野村研究室(MesoMediaFab)03-5466-0313



### 本シリーズについて(巻末解説最終稿テンプレート)

 8冊刊行予定の「論文の卵の産み方」シリーズは、平成29年度國學院大學特別推進研究助成金に採択された「中間知識とメゾメディア: 高等教育パラダイムの応用倫理的転回」(研究代表者・野村一夫)プロジェクトの基軸的モデルとして、平成29年度「演習Ⅰ」(2年生)において制作された新書シリーズである。

 学生による新書制作は、平成28年度「國學院大學特色ある教育研究」に採択された「すべてクラウドによる授業の作品化」プロジェクトの実施によって得られた知見をもとに、ひとつ駒を進めて、論文作成に至る本格的な演習プログラムの一環としておこなう企画である。昨年度プロジェクトの総括は、本書とほぼ同時に出版される『國學院大學教育開発推進機構紀要』第9号に掲載される論文「すべてクラウドによる授業の作品化と教育のメディア:授業を協働制作過程として可視化する技法」にまとめてある。

 今年度の研究プロジェクトでは「中間知識とメゾメディア」の構想を「学生による知識のセカンダリーな生産とそれを可視化する教育のメディア」と再定式化した上で、次の6点を実地に検証することを具体的目標としている。以下、上記論文の一部を利用して記述する。

①クラウドによる徹底的な情報共有をエンジンとすること。もはやメールでもLINEでも間に合わないことがわかったので業務用のWorkplace by FacebookとStockを徹底的に活用している。おそらくこのやり取りの総量は読者の想像をはるかに超えているはずである。

②リバースエンジニアリングの発想が効果的であること。これは模倣行為の再評価と独創性の再定義に関連する。授業課題そのものがリバースエンジニアリングになるようにした。完成品を解体して、そのしくみを調べ、自分たちなりに組み立て直す授業課題である。これは教育を「知識の伝達」と考えるのをやめて「知識の再演と再創造」と考えることにしたからである。学生が「知識のデコーディングとエンコーディングの循環過程に参加すること」こそが高等教育の眼目であると考える。このさい「エンコーディング/デコーディング」についてはスチュアート・ホールの概念を想定している。

[弱] James Proctor(2004=2006), Stuart Hall, Routledge.(ジェームス・プロクター『スチュアート・ホール』小笠原博毅訳、青土社)。[/弱]

③編集オフィスを用意すること。ラーニングコモンズがあれば、その片隅に設置できる。2017年4月に同志社大学を訪問して詳しく見学してきたが、大学としてのトータルデザインがないとラーニングコモンズはできない。そのかわり小さな工房があればいいと考え、研究室を大改造してMesoMediaFabとした。Fabについては田中浩也・門田和雄(2013)参照。アクティブラーニング自体がラーニングコモンズを前提にしているように、授業の作品化は制作工房を前提とする。週1の授業時間内ではまったく収まらないからである。

[弱] 田中浩也・門田和雄(2013)『FABに何が可能か:「つくりながら生きる」21世紀の野生の思考』フィルムアート社。[/弱]

④チームとしての集合的知性を信頼すること。信頼するが放置したままでは集合的知性は生じない。学生は機械ではないので指示すればすぐ動くというわけでもないし、個人として独立して動くわけでもない。スタンフォード大学などのビジネススクールの教員が執筆する直近のビジネススキルの翻訳本がとても役立つことを発見したので、今回のプロジェクトの課題書に採用した。学生自身が理解することが重要である。

⑤記録するというのは振り返ることである。そしてそれを共有することである。仲間と、そして未来の自分と共有することである。そのさい重要なことは、情報の発生する現場に立ち会った人が自発的に記録し共有していかないと組織や共同体における情報の透明性は確保できないということである。記録と共有、つまり自発的な発信がないと公共性は成立しない。じつはこのプロジェクトのはるかな先には公共世界の担い手育成という目標がある。

⑥学生が知識のデコーディングとエンコーディングの循環過程に参加することが高等教育の眼目であるとすれば、知識のセカンダリーな制作こそが高等教育のエンジンであり、それを可視化するのが「教育のメディア」であるはずである。ライティングスペース、表現空間、討議空間といった場所が必要である。このような学びの場においてこそ自律的な学習者が育つはずである。

[弱] Ambrose, Susan, et al.,(2010=2014) How Learning Works: 7 Reseach-Based Principles for Smart Teaching, John Wiley & Sons.(スーザン・A. アンブローズ他『大学における「学びの場」づくり:よりよいティーチングのための7つの原理』栗田佳代子訳、玉川大学出版部)。[/弱]


 今年度の「演習Ⅰ」のテーマは「トランメディア環境におけるクリエイティブの条件」である。現代のメディア環境を「トランスメディア」として理解するとともに「トランスメディア・ワーカー」として生きて行くには、どのようなチカラが必要なのかを自分ごととして考えていこうという趣旨である。この趣旨を理解して応募してくれた2年生のべ51名から34名を選抜して野村ゼミ13期生とした。

 作業は第1次選考の合格者30名を決めた6月初めから開始した。はからずも大所帯になったため、LINEでの情報共有をあきらめ、日本語版ができたばかりのWorkplace by Facebook上にコミュニティを作った。その後、第2次選考の合格者4名を加えて、自己紹介などの情報交換をして、初顔合わせのお茶会をこのメンバー自身でおこなった。これが7月14日である。

 その間に特別推進研究助成金が採択された。予算の大幅修正があったので新書プロジェクトの範囲を野村ゼミ13期生(2年生)のみに限定することにして、すぐに新書プロジェクトを開始した。と言ってもゼミは後期から始まるので正規の授業はない。しかし本番が始まると超絶的に多事になることが予想されたので、事前にできることとしてゼミ生有志とともに研究室を大改造してMesoMediaFab(メゾメディア工房)とし、機材などを導入し、チームを構成するなどの準備をおこなった。トッパンの印刷博物館見学も実施した。ゼミの運営は6つの「運営チーム」でおこなうことにした。

 後期授業が始まり、正式なゼミが始まった。初めは印刷表現の手始めとしてオリジナルデザインの名刺制作をおこなった。これにはクラウド仕様の「プリスタ(名刺制作)」を使用した。完成した段階でゼミ内名刺交換会をおこなった。


 新書制作をする目的は次の4点である。

(1)読むレッスン:シラバスに掲示した文献を読んで、議論の題材になりそうな文章を見つける。文献は新しいビジネス・スキルに関する翻訳書中心。

(2)書くレッスン:引用文の解説と論点を整理する。

(3)編集するレッスン:どんなメディアコンテンツでも編集作業が必須。読む人のことを考えて編集する。

(4)情報をデザインするレッスン:膨大なメディアコンテンツをどのようにデザインし直すか。キュレーションを学ぶ。

 いきなりオリジナル論文を書くのではなく、指定図書をよく読んで、それを多数の論点に分解して、それを素材として議論の道具箱を作るというのが目標である。リバースエンジニアリングの発想である。新書制作作業手順は以下の通りである。

(1)8つのテーマについて説明したのちに1つを選択する。

(2)テーマに即してチームを作る。新書編集チームのメンバーが各チームの編集長となる。新書編集チームはたえず情報共有してレベルを上げていく。レベルの高いチームに合わせるよう心がける。

(3)チーム内でのクルーの分担を決める。分担のやり方には、本の章単位で分担するやり方と、チーム全体でプロセスを共有しながら進めるやり方がある。前者は機械的な役割分担になりがちで、体温の低い人の担当個所が手薄になりがちである。後者は(叩き台を提示する人とリスポンスを返す人のように)有機的な分担ができると理想的だが、かなり手数が多くなる。今回は後者にするよう指導した。

(4)本を入手して、線引きしながら(付箋紙でもよい)通読する。メメ工房に課題図書は常備するが、編集上使用するため貸し出せない。私費で購入するか図書館で借りることが必要。

(5)クルーは引用集を作成してチーム内で発表する。それを叩き台にしてチームで内容を検討する。このさい議論が必要。かなり時間がかかると予想されるので、叩き台はしっかり作っておくこと。議論のさいは各人がメモを取ってチームのWorkChatグループに共有すること。

(6)ライティングスペースとしてStockを使用する。クラウド上に用意されたクローズドなスペースに直接原稿を執筆する。Stock上でチームの編集長を中心に原稿を練り込む。自分たちで判断できないときはメメ工房で相談する。

(7)トッパンエディナビにコンテンツを投入する。クラウド仕様なので、どこでも投入可能だが、メメ工房に入力用のパソコンを6台用意してあるので、メメ工房でも作業できる。

(8)版下を印刷して校正と校閲を繰り返す。そののちに印刷工場に送る。


 今回はシラバス掲載の到達目標の中の「誰にも負けない読書力をつける」をメインテーマとした。8テーマ8チームを選択肢として提示して、希望を優先しつつ均等な構成になるようにした。以下はそのさいに共有した概要である。


(1)野村ゼミ13期生チーム論チーム

前述。


(2)弾けるアイデアをひねりだす(クリエイティブ論)

 自由に企画せよと言われても、手ぶらでよいアイデアがひらめくことはありません。もしそれが採用されるとしても、たいてい誰も代案を言えないだけのことが多いと思います。良いアイデアをひねり出すには、知識と意欲とアンテナを持っていることが前提だと思いますが、もっと詰めて考えてみましょう。総じて大卒として就職した人がずっと定型業務に携わることは稀です。きっと何か定型業務ではない裁量的かつ創造的な何かに携わることが多くなります。とりわけ若い人には、そういう役割が期待されます。その期待に応えることができますか?

●チップ・ハース、ダン・ハース(飯岡美紀訳)『アイデアのちから』日経BP社、2008年。

●トム・ケリー、デイヴィッド・ケリー(千葉敏生訳)『クリエイティプ・マインドセット:創造力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法』日経BP社、2014年。

●佐藤可士和『佐藤可士和のクリエイティブシンキング』日経ビジネス人文庫、2016年。


(3)弱気で頑固な自分の動かし方(自我論)

 最近、新しいことをしましたか? 昨日と同じことをしていませんか? 例えばゼミで次々に繰り出される課題に向き合って自発的に準備をするのが「おっくう」ではありませんか? 締切直前まで課題に手を付ける気がしないということはありませんか? そういうとき、あなたはあなたをコントロールできていますか? どうやったら自分を動かせるのか考えてみましょう。

●ケリー・マクゴニガル(泉恵理子監訳)『スタンフォードの心理学講座 人生がうまくいくシンプルなルール』日経BP社、2016年。

●キャシー・サリット『パフォーマンス・ブレークスルー』徳間書店、2016年。

●タイラー・コーエン(高遠裕子訳)『インセンティブ:自分と世界をうまく動かす』日経BP社、2009年。


(4)他人を変える、自分を変える、関係を変える技術(コミュニケーション技術論)

 社会の基本単位は個人ではありません。コミュニケーションです。コミュニケーションの集積が社会の実体です。だから、この社会で生きていくためには、いつだって注意深くコミュニケーションをおこなうようにしなければなりません。コミュニケーションはある程度まで技術で乗り越えられます。メディア技術ばかりではありません。手ぶらでコミュニケーションをおこなうときにも、それなりの技術があるのです。

●ヘンドリー・ウェイジンガー、J・P・ポーリウ=フライ(高橋早苗訳)『プレッシャーなんてこわくない』早川書房、2015年。

●アンドリュー・ニューバーグ、マーク・ロバート・ウォルドマン(川田志津訳)『心をつなげる:相手と本当の関係を築くために大切な「共感コミュニケーション」12の方法』東洋出版、2014年。

●ダグラス・ストーン、ブルース・パットン、シーラ・ヒーン『話す技術・聴く技術』日本経済新聞出版社、2012年。


(5)腑に落ちるデザイン(情報デザイン論)

 魅力的なデザインはあります。同時に、わかりやすいデザインもありますね。ゼミで考えたいのは後者の方です。複雑なものごとをすとんとわからせるデザインを「情報デザイン」と言います。地下鉄の路線図や観光マップは美術的なデザインであると同時に巧みな情報デザインです。情報デザインという考え方は最近は「デザイン思考」として語られています。どういうことでしょうか。

●D. N. ノーマン(野島久雄訳)『誰のためのデザイン:認知科学者のデザイン原論』新曜社、1990年。

●アビー・コバート(長谷川敦士監訳、安藤幸央訳)『今日からはじめる情報設計』BNN、2015年。

●ティム・ブラウン(千葉敏生訳)『デザイン思考が世界を変える:イノベーションを導く新しい考え方』早川書房(ハヤカワノンフィクション文庫)2014年。


(6)パッとしない自分をスイッチする(人生デザイン論)

 情報デザインの応用編として「人生のデザイン」を考えてみましょう。私たちは過去の自分の経験から未来を想像しますが、ほんとうにそれでいいのでしょうか。さなぎから蝶が変態するように、スパッと人生路線を切り替えることはできないのでしょうか。鬱々として立ち上がれない自分をどうすれば立ち上がらせることができるのでしょう。こういうスイッチングは、ある程度までは技術的に解決できます。まずはそこまで立ち上がってみて、次のステップに進みましょう。

●メグ・ジェイ(小西敦子訳)『人生は20代で決まる:仕事・恋愛・将来設計』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。

●チップ・ハース、ダン・ハース(千葉敏生訳)『スイッチ! :「変われない」を変える方法』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。

●ブレネー・ブラウン(小川敏子訳)『立て直す力:感情を自覚し、整理し、人生を変える3ステップ』講談社、2017年。


(7)学び方を学び直す(知的生活論)

 これからの長い人生を今の自分の知識在庫だけでやっていけると思いますか。みなさんから見ると、今の老人や中年の人たちの考え方って古いと思いますよね。そうです。たいていは賞味期限の切れた知識を使い回していることがとても多い。なぜなら自分の知識をアップデートしてないから。知識のアップデートなしに一生涯やっていけるわけがありません。カビの生えた陳腐な知識や考え方と縁を切る唯一の方法は勉強です。正しく言えば独学です。独学の仕方を学びましょう。

●花村太郎『知的トレーニングの技術[完全独習版]』ちくま学芸文庫、2015年。

●東郷雄二『独学の技術』ちくま新書、2002 年。

●ベネディクト・キャリー(花塚恵訳)『脳が認める勉強法:「学習の科学」が明かす驚きの真実!』ダイヤモンド社、2015年。


(8)遠くの雲のつかみ方(クラウド体験記)

 これを読んでおられるみなさんは、すでにクラウドに跳んでいます。すでにクラウドがスタンダードになっている現代、クラウドを使いながら、その効用や落とし穴を考えてみましょう。そして未来のありようを想像してみましょう。これから企業や組織で働く人には必須の知識(新しい教養)です。

●江崎浩『インターネット・バイ・デザイン:21世紀のスマートな社会・産業インフラの創造へ』東京大学出版会、2016年。

●ダナ・ボイド(野中モモ訳)『つながりっぱなしの日常を生きる:ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』草思社、2014年。

●イーライ・パリサー(井口耕二訳)『フィルターバブル:インターネットが隠していること』ハヤカワノンフィクション文庫(早川書房)2016年。


 本シリーズにおいては、読書習慣のない学生に読書力をつけることに重点を置き、さらに「論文の卵」としてミニマムな学術的スタイルを繰り返し学ぶ知識空間の創造を期した。10月から1月前半までのきわめて短い期間での作業となったために、舌足らずで誤解を受ける表現が残っているかもしれない。すでにチーム内での修正は相当量あり、その中には私の指導も入っているが、チームとして投入した最終形にはあえて私の添削は入っていない。実地検証の素材であることを鑑み、良くも悪くもチームの作品そのままであることをご承知置きいただきたい。

2017年12月14日

国学院大学経済学部 野村一夫



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## アクティブラーニング授業の作品化プロジェクト全行程:クラウドを活用したMesoMediaFabをつくる

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### 目次

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プロジェクトの概要

 本書は、平成29年度國學院大學特別推進研究助成金採択プロジェクト「中間知識とメゾメディア:高等教育パラダイムの応用倫理的転回」(研究代表者・野村一夫経済学部教授)の9冊目の成果物である。

 このプロジェクトでは、高等教育における知識理論的な研究と同時並行的に、認知科学的転回を意図した具体的なモデル授業をおこなっている。基調は「知識の教授モデル」から「知識の主体的学びモデル」への転換である。

 ポイントは次の4点である。

(1)チーム単位での討論をメインにして、学びの最小単位をチームに移行する。つまりチームで調べ、チームで考え、チームで成果物を作成するスタイルを確立する。

(2)ゴールを作品制作に設定し、制作過程の中に学びの機会がたくさんできるように知識環境を整備し、自発的な学びを促進する。

(3)学びを進めながら、たえず反省的に記録を残す授業スタイルを構築する。実感と経験値をたえず言葉で再現することで反省(振り返り)のレベルを高次化する。

(4)知性は対話の中にある。対話と議論の只中にこそ借り物でない思考が宿る。対話と議論は授業の現場だけではなく、日常的に研究室でおこなう雑談や、クラウド上に設定したライティングスペースでもできる。

 この4点を集約させてモデル授業を野村ゼミ13期生(2年生)34名とともに2単位の「演習Ⅰ」で実施した。知識理論的見地から言うと「認知科学的転回」によってモデル授業の主体は教員ではなく学生になる。だから本プロジェクトにおいて学生は実験授業の被験者であると同時に、授業の枠組みの中に教員が設定した知識環境と相互作用しながら、認知科学的意味における学びの能動的実践者になるわけである。つまり学生には正しい意味における研究協力者の役割を果たしてもらったのである。


本書の位置づけ

 本書は、そのモデル授業のプロセスを学生たちによって反省的に再現したものである。言葉だけでなく写真表現やグラフィカルな表現にも挑戦してもらった。表現スタイルは多様であっていいのであるし、学びのプロセスに生じる主観的感情も表現してよいのである。なぜなら学びはそういう感情や表現を伴って反省的かつ再帰的に起動するからである。

 「認知科学的転回」を主軸に授業スタイルをひっくり返して、全面的にアクティブラーニングに切り替え、パソコンとスマートフォン以外に高価な装置を必要としないクラウドサービスを全面的に採用した。PBLとして授業の目標は作品制作とし、そこに向かってチーム単位で精密な読書をしキュレーションをし議論した結果を文章化してオンデマンド印刷する。私たちは本書に至るまでに個人別の名刺とビジネススキルに関する経営学の翻訳書をリヴァースエンジニアリングした「論文の卵の産み方シリーズ」を新書8冊として制作してきた。本書では、それを全員で総括したものである。もちろん制作過程では「あのときのあの作業は何だったのか」「叱られたとき先生は何を考えていたのか」といった無数の学びが生じている。それが本書の本文に反映していることもあり、そうでなくとも利用してきた各種クラウド内にすべて痕跡が残っている。本研究プロジェクトとしては、それを分析対象として報告書・資料集・研究論文に昇華させていく予定である。


謝辞

 野村ゼミ13期生には、アクティブラーニング授業の作品化として半年のあいだに計9冊の本を協働制作するという、1セメスター2単位分をはるかに超えるミッションを果たしてもらった。ゼミ募集の時には「土曜日はゼミの日」キャンペーンをおこなったが、事実上「毎日がゼミの日」になった。10単位ぐらい付けたいが制度上できない。

 私が「メゾメディア」と名づけた教育のメディア方式に関しては、Workplace (Facebook社)、トッパンエディトリアルナビ(凸版印刷株式会社電子事業部)、Stock(リンクライブ社)という3つのクラウドを駆使できた。本来は業務用に開発されたクラウドを快く大学向けにチューニングして使わせていただいたことを感謝したい。

 また、2年生のみの授業であったため、Workplace by Facebookに「メゾメディア工房」立ち上げのさい、アドバイザリースタッフをお願いしたBreadSmith美奈子さん(クロスメディアコミュニケーションズ社)と野村ゼミOBのみなさんに感謝したい。

 研究助成金すべての管理を担当していただいた本学研究開発推進機構事務課スタッフにも感謝したい。また、従来的常識を反転させる冒険的な教育研究に助成金を採択してくださった本学執行部に感謝したい。


2018年2月8日 野村一夫

R707FF@kokugakuin.ac.jp

〒150-8440

東京都渋谷区東4-10-28国学院大学経済学部

815野村研究室(MesoMediaFab)03-5466-0313



## すべてクラウドによる授業の作品化と教育のメディア:授業を協働制作過程として可視化する技法

平成28年度特色ある教育研究の成果として論文「すべてクラウドによる授業の作品化と教育のメディア:授業を協働制作過程として可視化する技法」を『國學院大學教育開発推進機構紀要』に投稿した。これは『國學院大學教育開発推進機構紀要』第9号(平成30年3月)31-49ページに掲載された。すでに本プロジェクトが進行中だったため、先取り的にいくつかの論点を提示しておいたので、これも本プロジェクトの成果物である。




## トランスモードへ

 年度が変わってしまったが、このプロジェクトにはまだ続きがある。それは自分たちが作った8冊の本を題材にランダムなチームでラジオトークすることである。これがなければ、ゼミ全体として知識を共有したことにならない。そこで平成30年度4月から5月を当てて、この作業に入ることにした。これらは音声データであるから、Workplace by Facebook内に各チームごとにセッションを録音していった。1セッション10分のラジオ番組と想定して、1つのテーゼについて議論するのである。全部で80セッションあるが、いくつかベストテイクを選択してYouTubeに出す計画をしていた。すでにFacebookページ上に「ノムラゼミラジオ計画」(https://www.facebook.com/shibuyaeast/)を公開してきたので、その展開形を構想していたが、次の「世界語計画」と「トランスマガジン計画」が控えていたので、公開作業はしていない。


## クロスメディアコミュニケーションズ社による評価

 平成28年度特色ある教育研究として学生たちと制作しているプロセスは折に触れてFacebookに投稿してきたが、それに関心を寄せてくれたクロスメディアコミュニケーションズ社のBreadSmith美奈子氏にはアドバイザリーとしてプロジェクトのWorkplace by Facebookに加わっていただき、一部始終を見ていただいていた。プロジェクトが一段落した段階で、記事化の依頼があり、学生有志とともにインタビューしてもらい記事にしていただいた。以下はその引用とキャプチャー画像である。


「大学ゼミにおける『学びの可視化』プロジェクトの連載インタビューがスタートします! 人生100年時代を踏まえ、社会人のスキルが見直される中、個人とチームの能力の伸ばし方には工夫が必要です。学生の皆さんのこの活動には、社会人の私たちにも参考となるヒントが隠されています。」として3回にわたって紹介記事が公開された。クロスメディアコミュニケーションズ社から掲載許可を取った上でキャプチャー画像を分割して掲載する。

 [http://www.crossmedia.co.jp/2018/04/20/4619](http://www.crossmedia.co.jp/2018/04/20/4619?fbclid=IwAR2MOVXGD8gd7Ejjrmt57UO7rB5EG7ikR0w8bjIBfzQxAbLSOhr4a4JgTgg) 

[image:B01778D3-A55B-4F24-9A68-DC8F25A9254B-76983-00012453D4240ED7/クロス00.png]

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## 授業の作品化に関する中間考察

 この報告書はすでに刊行した9冊とバックヤードとして活用したWorkplace by FacebookとStockとトッパンエディトリアルナビ上の膨大なコンテンツを前提として記述しているので、それらと合わせて総合的な評価をいただきたい。また前年度「特色ある教育研究」に基づいた論文「すべてクラウドによる授業の作品化と教育のメディア」も合わせて参照してほしい。

 その上で、本報告書では「中間考察」として「授業の作品化」に関する論点を明確にしておきたい。それぞれの論点間の関係および総合的考察については現在進行中の「平成30年度特別推進研究助成」の来たるべき報告書に譲りたい。議論になった論点から順に並べることにする。時間的に説明できない項目は、項目を並べるにとどめておく。

### 作品化とは何か

 コンテンツが作品と呼びうる条件は3つある。第1に署名性。第2にメディア形式。第3にオリジナリティである。作品化は、その3要素を合わせ持つ作品をめざして制作するプロセスのことである。このさい重要なのは成果物が完成された作品であることではなく、そこをめざすプロセスが教育のプロセスだということである。作品として出てきたアウトカム自体の評価とプロセスの評価は同一のものとは限らない。

### 授業は作品化できるのか

「授業の作品化」と名づけたのは「授業そのものが作品である」と言いたいのではない。正しくは「授業を学生自身の作品制作の過程にする」ということである。作品はメディア形式を取らないと作品とは呼べないので、当然メディア制作を授業の推進力に設定することになる。作品は署名性を持つので、学生にとっては自分の名前の入ったメディアになる。しかも作品はオリジナリティがなければならないので、レポート以上の創意工夫や努力が要請される。要するに授業空間を最初から最後まで明確な目標に向かう緊張感のある空間にすることである。単位取得を目標とする現在の授業空間では、いくらでも手を抜くことができる。そういう余地を与えないということでもある。逆に、制作過程においてはミクロな創造性を発揮できるという意味での余地がある。

### オリジナリティとコピペをめぐる学生と教員と大学の問題

 小項目事典の各項目にオリジナリティがあるだろうか。それは編集物として作品なのだと考えるべきである。学生が何か作品を作れるとしたら、このような編集物か、さもなければ個人的なエッセイのようなものである。体験記や調査報告書のようなものもありうる。しかし大学の授業においてエッセイを目標にするのは難しい。感想文も同様である。

 表現されたものしか評価しないと決めると、レポートか論文かということになる。しかし、その分野について学び始めた者が何かをオリジナルに論じることができるものだろうか。

 習作は習作である。しかし、だからといって従来のように教員しか読まない、評価するためにしか読まないのでは、毎年同じことの繰り返しになる。作品の共有が必要だというのが本研究の要衝である。

 新書本スタイルでまとめた「論文の卵の産み方シリーズ」という名前は、事後的に創案したものである。論文の要素をもっともミニマムにそろえて説明する。それをチームとゼミで共有する。できれば、それをゼミ外の人と共有できれば、習作は習作として意味を持つ。


### 学生のメリットとデメリット

 表現しなければ何も起こらない。悪いことも起きないが、いいことも起きない。作品性をもつ条件としてあげた署名の問題はその第一条件である。だから「個人情報」云々という筋ではない。


### 教員のメリットとデメリット

 チーム作り、課題設定、高度な編集能力

### ディシプリンによる差異

 学生が自分で考えることを推奨するにしても「自由に考えよ」と言うか「信頼できるデータに即して考えよ」と言うかでまったく異なる道筋を通ることになる。

### プラットフォームをクラウド化する意味

 

### 大前提となるコミュニケーションの集積

量をこなすこと

 主体的な学びということでは量をこなすことが絶対的な条件だと考えている。量をこなせば、自分のそれまでの一定水準を単純に繰り返すだけでは済まなくなるからである。

表現とは何か

### メディア形式の選択

### テーマの選択、教材の選択

### 学生の資質

### 手続きの壁問題

### 学習環境のリセット

### クリエイティブとリーダーシップとフォロワーシップ

リーダーシップを発揮できる人はかなり少ない。次々にアイデアを出せるクリエイティブはさらに少ない。

### ソーシャルメディアの通信教育は可能か

『インフォアーツ論』ではネットワーク型の知性について考えた。

### テンションの維持と脱力傾向

15回の授業で完結しなければならないセメスター制は、通年授業よりもピッチを維持しやすい。しかし、

### 読書力がないとスカスカのコンテンツになることについて

情報源と図書は指定すべきである。けっして自由にしてはならないということ。

### 結局、学びの共同体は出現するのか


## 知識の理論へ

 もともとメディアリテラシー教育の次のステップとして2003年に発表した『インフォアーツ論:ネットワーク的知性とはなにか』(新書y、洋泉社)の「メディア制作を媒介にした正統的周辺参加」という考え方からゼミで継続してきたメディア制作活動を、理論的にもメディア的にもコンテンツ的にも洗練させて行こうというのが本研究プロジェクトの主旨であった。

 その中で、一方で科学論的な大きな転換(知識の認知科学的転回)についての理解が深まるとともに、他方で大学教育の現場における授業改革に従事して、その実践的なソリューションを目指した検証実験であった。さまざまな問題がありつつも、国内派遣研究期間というエフォート率100%の特殊事情のもとでは一定の成果を上げることができた。

 次の問題は、平常業務の中でどこまでできるのかということである。当然1つの授業当たり10%程度のエフォート率でできることは限られるから、学生サイドの自発性・能動性・主体性が問われることになる。とくに優秀な学生を選んでトレーニングするのではなく、ごく一般的な学生がそういう資質を発揮できる環境設定が重要になる。

 また、今回は34名という通常のゼミ換算で2つか3つ分というスケールであったが、これを中規模・大規模教室での講義形式授業において、どのように応用できるかも考えていかなければならない。私も1セメスターあたり500名超の学生を担当するが、その大部分は中規模・大規模教室での授業である。とくにアシスタントもなく教員1人でどのような展開方法がありうるかを実証実験する必要がある。

 さらに、たんに教育工学的なアプローチではなく、人文学および社会科学を学びの対象とするのにふさわしいアプローチの仕方を理論的に固めておく必要がある。教育工学的な技術は不可欠だと考えるが、それだけで済むとは到底思えないのである。中間知識という概念を発案したのは、その課題を明確に名指しする必要があったからである。その内実は、次のステップで考究すべき方向になる。


## 謝辞

 本研究プロジェクトは平成29年度特別推進研究助成金を受けておこなったものである。メディア制作を媒介とする教育研究という、本学としては周辺的な研究テーマにご理解をいただいたことを謹んで感謝申し上げたい。研究開発推進機構、とりわけ事務課には多大なご負担をおかけした。謹んで感謝申し上げたい。また、平成29年度国内派遣研究員として大阪大学COデザインセンター招へい教授として迎えて下さった池田光穂教授とは理論的研究に関しても実践的手法に関しても膨大な議論を重ねることになり、このプロジェクトから共同研究の道を拓くことができた。謹んで感謝申し上げたい。2年ゼミ生には、2単位授業にもかかわらず10単位分くらいの勉強量と作業量を課した。それが将来に役立つことを切に願う。



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